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破裂するドリアン河の記憶 [マレーシア]




『破裂するドリアンの河の記憶』River of Exploding Durians [ 榴莲忘返 ] エドモンド・ヨウ監督

 レア・アース工場建設で揺れる港町。そこで生きる高校生たちの夢と記憶の境界線上。テロを扱うかなり過激な描写もあるが、今在る世界を鮮やかに語る手腕に驚かされる。
短編・中編ではわりと叙情的な作品を撮っていたヨウ監督だったが、一変して政治色強い作品だったので本当に驚いた。エドワード・ヤンのオマージュが随所に観られ、ヤン監督の後継者は案外この人かもしれないとさえ思った。コンペ作品だったが、これに賞をあげられない東京国際映画祭の方向性は本当に残念だ。ウー・ミンジン監督(今回はプロデューサー)とのコンビ作は今後も注目だ。


港町に暮らす高校生ミンは、幼なじみで貧しい漁師の娘メイ・アンに想いを抱いていた。森や海沿いでデートするが、メイ・アンとふと連絡が取れなくなってしまう。実は彼女には親に決められた婚約者がいたが、誰の子かわからない妊娠が発覚し、結婚も破談になってしまう。
地元ではレア・アース採掘工場の建設が計画されている。女教師のリムは生徒に歴史を教えているが、一方で建設反対運動に参加している。生徒たちを運動にリクルートするなどし、その行動は次第にエスカレートしていく。彼女はついにレア・アース工場のトップのところへ乗り込み凶行に走る。
事件の後、リム先生の故郷、キャメロンハイランドを訪れたミンは、夕暮れの祭りの賑わいの中で、クラスメイトのホイ・リンを見つける。そのシーンが実に素晴らしい。

ミハイル・ブルガーコフの『巨匠とマルガリータ』の引用とともに、リム先生の歴史の授業では、生徒たちがグループでアジアの民主化の重要事件をとりあげ発表する。
・血の水曜日事件(タマサート大学虐殺事件) 1976年10月6日クーデターの過程で発生したタイの事件で、大学生たちが46名犠牲になった。
・リリオサ・イラオ事件 1973年4月、マルコス政権戒厳令下。出版物を制限しようとした政権を批判したHASIKの女性編集長で学生リーダーのリリオサが、ロドルフォ・ガルシア中尉が率いる抗麻薬対策組織(CANU)によって塩酸で毒殺された事件。以降3年間フィリピンから民主化が遠のく。
・唐ゆきさん  長崎県島原半島・熊本県天草諸島出身が多く、女衒によってアジア各地に輸出された日本の娼婦。明治末期に最盛期を迎えるが、のちに世論の批判対象になり、1920年、英領マラヤの日本領事館は国のメンツで娼婦の追放を宣言。

そのほか、建国の父アブドゥル・ラーマンや英領サラワクの提督を殺した人物の言及もあった。
また、深読みのし過ぎかもしれないが、この映画には五行思想が込められている気がする。すなわち万物は「木」「火」「土」「金」「水」の5種類の元素からなり、互いに影響を与え合い、その生滅盛衰によって天地万物が変化し、循環するという考えだ。劇中にはそのイメージが散見できる。


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