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ゲンボとタシの夢見るブータン [チベット・ブータン]




ゲンボとタシの兄妹が実に魅力的だ。
二人は今どきの日本の中高校生のようにYoutubeやFacebookに興じ、まるで仲のよい親友同士のように、サッカーや可愛い女の子の話で盛り上がる。え?と思った方も多いだろう。兄弟ならまだしも、兄と妹が?と。タシは男っぽい女の子で、性同一障害(FtoM)の要素があるようなのだ。両親も「男の子の魂を持って生まれて来た」と、その辺は理解を示してるようだ。

一方、ゲンボは父親の期待を一身に背負っている。舞台となっているブムタンはブータン中部にあり、一族が代々受け継いできたチャカル・ラカンは8世紀初頭にまでルーツを遡る由緒ある古刹らしい。ゲンボとタシは600年前にその地に寺を建てた高僧ドルジ・リンパの子孫にあたる。父親は責任を感じていて、一刻も早く僧院学校に入学させ一通りの祭事を息子に教えたいと思っているが、母親は海外の訪問者を案内するための英語の勉強も必要だしそんなに急がなくても、と言って意見が合わない。ゲンボ本人も進路を決めかねているようで父親の問いかけにも無口だ。

国家として「国民総幸福量:GNH」という理念を掲げるブータンだが、実は目標の数値を達成できないでいる。鎖国状態から1999年にTV放送とインターネットが同時に解禁され、2008年に立憲君主制に移行する新憲法が公布、ブータンは急激な近代化のただ中にある。物質主義ではない豊かさに価値を求めようとシステム化されたGNHだったが、皮肉なことに、国際化・近代化は多様な価値観、金=幸福の認識を広めてしまったため、人々の幸福度は下がってしまったようだ。

子供たちにとって何が幸せなのか。映画は結論を出さず、我々に問いかける。現代人にとって、目移りしてしまうほどたくさんの可能性があることは、ある種の不幸かもしれないと時に思ったりする。だが、これはすでに近代化を終えた側の身勝手な言い分に過ぎないかもしれない。伝統と近代化の問題は戦後アジア各国で未だに引きずっている問題だが、ゲンボと父親が下見に訪問した僧院学校の先生がとても現実的で理性的な意見を言うのが意外で安堵もした。ゲンボとタシは将来どういう選択をしていくのか。彼らの成長が気になるので、ぜひ続編を希望したい。(カネコマサアキ★★★)

(初出「旅シネ」より)

■関連事項

ブータン出身のアルム・バッタライとハンガリー出身のドロッチャ・ズルボーは、若手ドキュメンタリー制作プログラム「ドッグ・ノマッズ」で出会い、世界7つのドキュメンタリー・ピッチング・イベントに参加。国をまたがる6つの財団から資金を得て、完成にこぎつけた。その制作過程も興味深い。


The Next Gardian
2017年/ブータン・ハンガリー
監督:アルム・バッタライ、ドロッチャ・ズルボー
配給:サニーフィルム
公開:8月18日(土)よりポレポレ東中野ほか全国ロードショー

■ストーリー

ブータンの小さな村に暮らす兄ゲンボ(15歳)と妹タシ(14歳)。ゲンボは悩みを抱えている。一族が代々受け継いできた寺院を引き継ぐために学校を辞め、戒律の厳しい僧院学校に行くように父親から薦められているからだ。タシは女子サッカーに夢中でナショナルチームへ行くことを夢みている。急速な近代化で変わりゆくブータン社会の中で思春期を迎えた子供たちの未来をみつめるドキュメンタリー。

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