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ポップ・アイ [タイ]

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荻上直子監督の『めがね』という映画では、南の島でボーっとすることを「たそがれる」と表現していた。この映画もゆったりした時間の流れがあり、シンプルな画面構成にも荻上作品に似たモノを感じるのだが、この「たそがれる」、造語なのかと思っていたら、辞書に「黄昏れる」という言葉がきちんと存在していた。本来の意味は「盛りを過ぎて衰える」という意味だ。

主人公はかつては第一線にいた建築家だったが、会社や家庭にに居場所をなくし、文字通り盛りを過ぎてしまった「黄昏れた」中年男だ。バンコクの生活にうんざりして街角で再会したゾウと故郷ルーイへ戻ることに。旅をしながら自分の人生を振り返る。

旅先ではトラブルの連続。そして様々な人に出会う。廃屋で死を待ち続けている男、酒場でくだを巻くトランスジェンダーの女。いずれも黄昏れた人々だ。ようやく到着した故郷ルーイでは驚きの事実を知らされる。老いてなお変わらないもの、人生に大切なものとは…。いろいろと示唆に富んだ作品だ。心理学的にいったら「ミドルエイジ・クライシス」を描いているのだろうと思うが、筆者のような中年男にはなぜか居心地が良い世界観だ。

監督はシンガポール出身で2年間タイに住んでいた経験をもつ。タイ社会に自国にはない寛容さと仏教的諦観を発見するのは日本人も同じだろう。タイの伝統弦楽器ピンに似たギターの音色で奏でられたマット・ジェイムズ・ケリーの浮遊感ある音楽も素晴らしい。ルークトゥン『娼婦からの手紙』の詞にもぐっと来る。たそがれたい人、タイ旅気分を味わいたい人は必見だ。(カネコマサアキ★★★☆)

(初出「旅シネ」)



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  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
  • メディア: DVD



2017年シンガポール・タイ
監督・脚本:カースティン・タン
出演:タネート・ワラークンヌクロ(『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』) ペンパック・シクリンほか
配給:トレノバ
公開:8月18日(土)ユーロスペースほか全国順次ロードショー

■ストーリー

かつては一流建築家として名を馳せたタナーだったが、いつしか会社には居場所がなくなり、妻にも相手にされず、人生に幻滅している。ある日、バンコクの街角で幼い頃飼っていたゾウのポパイを偶然見つける。いてもたっていられなくなったタナーは巨大なゾウを買い取って家に連れて帰るが妻は激怒。何もかも放り出したくなったタナーはポパイと旅に出ることに…。

第33 回サンダンス映画祭ワールド・シネマドラマ・コンペティション部門脚本賞
第90回アカデミー賞外国語映画賞シンガポール代表



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