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14th FILMeX [アジア総合]

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第14回東京フィルメックス
2013年11月23日(土・祝)〜12月1日(日)@有楽町。

今回も豪華な顔ぶれだった。
直前のツァイ・ミンリャン引退宣言には驚かされたが、来場時のコメントを聞くかぎりでは、まだまだ可能性がありそうな気がする。映画を撮ることをやめても、表現することはやめない人だろう。

                   *
【11月23日(土・勤労感謝の日)】
土曜日、フィルメックスでジャ・ジャンクー監督の新作『罪の手ざわり』を観て来た。


●『罪の手ざわり』 賈 樟柯 (ジャ・ジャンクー)監督

実際に起きた4つの事件(胡文海・周克華・鄧玉嬌・富士康従業員の自殺)を取り上げ、そこに武侠の発生を見出す。主人公たちは1つの町に留まらず移動し、別の物語にリンクしている。動線としての温州の列車衝突(その後埋める)も象徴的に描かれていた。「玉堂春」の引用も。
趙濤が珍しい髪型してると思っていたら、ナイフを持った瞬間に「おおっ」。キン・フー監督『侠女』('71)の徐楓あたりを彷彿とさせる。冒頭の姜武のパートは馬も出て来て『許されざる者』のような西部劇を連想。王宝強はどこか忍者めいて見えた。東莞で湖南少年が恋した兵隊姿の風俗嬢がやけに印象に残る。→2014年5月末公開予定。


【11月26日(火)】
昨日もフィルメックス@有楽町でエミール・バイガジン監督『ハーモニー・レッスン』(カザフスタン)とアンソニー・チェン(陳哲藝)監督『ILO ILO』(シンガポール)を観て来た。どちらも長編処女作とは思えない出来栄えで、キャスティングが素晴らしい。


●『ハーモニー・レッスン』 エミール・バイガジン監督(カザフスタン)

理数系が得意な中学生アスランは、身体検査での出来事から除け者扱いに。ボラットを中心とした不良たちは上級生に金を上納するため生徒たちを暴力で牛耳る。女子に仄かな恋心、転校生のミルサインと微かな交流をもちながら、アスランはついに兇行に走る。
凄く好みの作品だけど、気になったのは、決定的シーンをあえて避けミステリー展開にする必要はあったのだろうか?観客に犯人を判たせた上で留置所内の2人の少年の葛藤をきちんと描いた方がより印象的だったような気がする。それでもラストの「ハピロン」シーンは切なかったけど。


●『ILO ILO』 アンソニー・チェン(陳哲藝)監督(シンガポール)

問題ばかり起こす少年ジャールー(林家樂)の家にテレサというフィリピン人メイドがやってくる。母親は身重ながら仕事をもち、父親は実は失業中。90年代のアジア通貨危機を背景に、ギクシャクした家庭に新風を吹き込むテレサ。彼女が故郷に帰るまでの数ヶ月を少年目線で描く。
決して目新しい物語ではないと思うけど、細やかで緩急の効いた巧みな演出で鮮やかな一本勝ち。シンガポール映画のスタンダード・古典になりそうな予感も。他者たるフィリピン人の内面も寄り添うように描いていて好感。母親役の楊雁雁の演技が凄い。たまごっち〜ヒヨコ~鶏肉。宝クジ。頭髪の匂い。
監督の説明によると、ILO ILOのタイトルはフィリピンの地方都市の名称で、監督の幼少時のフィリピン人メイドから聞いた記憶から。島倉千代子ではなかった。29日に追加上映あり。
助監督はマレーシアのシャーロット・リム(『理髪店の娘』)。


【11月27日(水)】
今日もフィルメックスで有楽町へ。ウィッサラー・ウィチット・ワータカーン監督『カラオケ・ガール』(タイ)とハンナ・エスビア監督『トランジット』(フィリピン)、そして中村登生誕100年の特集で『夜の片鱗』(’64)。


●『カラオケ・ガール』 ウィッサラー・ウィチット・ワータカーン監督(タイ)

15歳の時にコーン・ケーン?からバンコクのケーキ工場に働きに出て来たサー(名前)。現在は23才でカラオケ・バーでホステスをしている。田舎のゴム園で働く両親にはホステスのことは内緒にしている。客に弄ばれたり、恋人のような存在のトンともしっくり行かないでいる。
創作とドキュの虚実皮膜な作品。雰囲気は良いが、踏み込みが足りず、よそ行きの顔ばかり見せられてるような気が。バンコクの風俗従事者にはもっと興味深い被写体がいると思っていたけど、時代は変わったのだろうか?村祭りの御輿、サイアムパークシティも出て来た。音楽が清水宏一さん。


●『トランジット』 ハンナ・エスビア監督(フィリピン)

イスラエルの移民法改正で、4歳児未満は強制送還されることに。フィリピン人介護士のモイゼスは別れた妻との間にできた息子ジョシュアを5歳になるまで穏便に滞在させようとする。ある日、同居の要介護者が倒れ、不法が発覚・・・。テルアビブの出稼ぎフィリビン人たちの現状を輪舞形式で描く。
近所に住むモイゼスの姉には年頃の娘ヤエルがいて、彼女も無国籍の負い目。子供たちは比語を喋れず、アドボも苦手で、自身をイスラエル人だと思いたがる。ジョシュアは同居の老人から律法(トーラー)やバル・ミツバーを学ぶが、透明人間になれるスカーフも虚しく、送還命令が下る。切ない別れに涙。


●『夜の片鱗』(’64)  中村登監督(松竹)

19歳の芳江(桑野)はバーで知り合った英次(平)と恋仲になるが、彼は地回りのヤクザだった。上納金のため、売春を強要され、芳江は夜の街に立つようになる。そこで実直な建築技師・藤井に出会い、求婚される。だが、芳江は英次となかなか手を切れない・・・。
エグい作品だった。「堕ちて行く女」を描いた作品を好んで観てきたけど、これはその究極かも。女だけならまだファンタジーなのだが、男の堕ち方もスゴいので身につまされる。今まで観た中で最も恐ろしい映画の一つ。ネオンの色彩・陰影が印象的。中村の『旅路』(’53)はこの映画の原型に見える。


【11月29日(金)】
本日もフィルメックス@有楽町。中村登監督『土砂降り』(57) と張作驥監督『夏休みの宿題』。QAのゲストは監督が出てくるのかと思ったら、主演の小学生で、微笑ましかった。史上最年少ゲストになるのか?


●『土砂降り』(’57) 中村登監督(松竹)

役所勤めの松子(岡田)は恋人の須藤(佐田)と結婚の話が進んでいたが破談に。実家が連れ込み旅館で妾の子という理由からだった。須藤は別の女と結婚、松子は神戸でホステスに。2年後、再会するが、須藤は収賄容疑の追われる身だった。二人は土砂降りの夜に旅館へ戻ってくる。
線路沿いに佇む旅館の名前が「ことぶき」。汽車の白煙・踏切の警告音が緊張感を高める。二人の死後、父親(山村)と妾の母親(沢村)のエピソードが、重層的に語られる。日守夫婦がユーモラス。デパートで本妻の息子たちと偶然出会う弟妹の描写。梅子役の桑野が幼い。ネオンの見える部屋。


●『夏休みの宿題』 張作驥(チャン・ツォーチ)監督(台湾)

両親が離婚協議中のため、夏休みの間、台北から新店区屈尺の祖父に預けられた10歳の小宝。現地の小学生と馴染んで行く。生意気な妹もやって来て賑やかな日々を過ごすが、友だちの明詮の事故死、台風、祖父の病気に遭遇。たくさんの宿題を残したまま夏休みが終わる。
山あいの風景・川・木登りが清水の『団栗と椎の実』を連想したけど、やはり師匠の『冬冬』なのだろう。近年の張監督はぐいぐい見せる作品が多かったけど、今回は少年の静かな機微の変化を捉えていた。方法論も今の侯孝賢に近い気が。子供達は超自然体。演技してるように見えず。特に妹ちゃん。


【11月30日(土)】
土曜日、フィルメックス@有楽町。蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)監督『ピクニック』と閉会式+リティ・パニュ監督『Missing Pictures』を観る。(閉会式のマフマルバフ監督のコメントが感動的だった)


●『ピクニック』蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)監督

小康は道路脇でマンション販売の看板を掲げる仕事で日銭を稼いでいる。彼の息子と娘は試食品目当てにスーパーを徘徊。夕食は三人でコンビニ弁当。公共便所で歯磨きし、廃墟の部屋で寝泊まりする。ある嵐の夜、三人はボートに乗って岸に着くと、謎の女が現れ、彼らを部屋に招く。
万年青年の小康もついに父親に。我が身を嘆いて漢詩「満江紅」を叫ぶ。水辺・船・酒は李白・杜甫の漂泊の詩人を連想。廃墟を含めどこか中国庭園の中にいる感じも。楊貴媚の部屋は『愛情萬才』の部屋が歳月で変質したように見え、山水画の世界に迷い込んだようでもある。李登輝・王力宏という名の犬が出て来る。
廃墟の壁に描かれた山水画は、監督曰く、台湾の少数民族の画家が描いた台湾の原風景だという。ラストの長尺で陳湘琪が涙を流し、小康が酒飲んでふらついている姿は、桃源郷を夢見て現世を憂いているようにも見えるし、世俗から山水の世界に隠遁するため、別れを惜しんでいるようにも見える。
→2014年8月下旬より『郊遊-ピクニック-』という邦題で公開予定。


●『Missing Pictures』リティ・パニュ監督

リティ・パニュ監督の自伝的で集大成的な映画。意外にも監督がストレートに自らの心象を言葉にし、作品にしたのはこれが初めてかも。クメール・ルージュ支配下で親・兄弟を失って行く様子が、モノローグと土人形、現存するプロパガンダフィルムで語られる。
土人形が素朴で愛嬌あるも、時に不気味に映る。かつて住んでいた家の間取りを再現しようと模型を造ったことが制作の始まり。アン・サルンというクメール赤専属のカメラマンの処刑、チェ・ヌーという映画監督が隣に住んでいた話など。ダヴィ・チュウ監督『ゴールデン・スランバーズ』も思い出す。
信じられないことに、こちらも公開予定らしい。過去の作品もレトロスペクティヴ上映してほしい。
→2014年7月5日より公開予定

【第14回東京フィルメックス受賞結果】
最優秀作品賞『花咲くころ』
審査員特別賞『ハーモニー・レッスン』
スペシャル・メンション『カラオケ・ガール』『トーキョービッチ,アイラブユー』
観客賞『ILO ILO』
学生審査員賞『トランジット』


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