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ゴールデン・スランバーズ [カンボジア]




TIFFアジアの風「ディスカバー亜州電影~伝説のホラー&ファンタ王国カンボジア」のプログラムで観たドキュメンタリー『ゴールデン・スランバーズ』('11)は、内戦とポト派の粛清で失われてしまったカンボジア映画史を、人々の記憶から甦らせるという試みをもった素晴らしい作品だった。

映画にまつわるドキュメンタリーなのに、映画作品の映像素材は、ほとんど出てこない。(ラストに一部が映し出されるのみ)音楽(主題歌・挿入歌)、ラジオCMの音、ポスター、市井の人々の思い出や、存命の監督・俳優の証言によって浮かび上がって来る映画(=記憶)を、観ている我々に想像させる、という作りになっている。(この方法は、たとえば、賈樟柯の『四川のうた』あたりを思い出させる。)

一番驚いた事は、カンボジア映画の最盛期(最量産期といってもいい)が、ロン・ノルによるクーデターから、クメール・ルージュがプノンペンを制圧すまでの’70-’75年頃だったという事実だ。つまり、内戦中ということだ。戦火が広がるにつれ、住民は街から出られなかったため、映画に娯楽を求めた・・・ということらしい。この時期、クメール・ルージュは、腐敗的だといって、映画館に手榴弾を投げ込むこともあったらしい。政府側は映画館を封鎖しようとしたが、それでは敵のプロパガンダに屈してしまうということで、続行が認められたようだ。

黄金時代のフィルム・リスト:
http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_Cambodian_films_1955-1975

フランス生まれのダヴィ・チュウ(周戴維)監督は現在29歳。両親は73年にカンボジアからフランスに移住したという。祖父がプロデューサーのヴァン・チャン(Vann Chann)という人物だったため、チュウ監督は自然とカンボジア映画に興味を持つことに。冒頭、ヴァン・チャンの娘、(監督のおばにあたる人物で、ソホン・スティール社の社長)がパリでインタビューに答えるところから映画は始まる。カメラは2010年のプノンペンに移り、そこでインタビューに答えている関係者は、主に4人。リー・ブン・イム監督、イヴォン・ヘム監督、リー・ユウ・スリアン監督、女優で監督のディ・サヴェット。かつて映画館だった場所や、現在の人々の状況を写しながら、過去の平和だった時期、内戦、クメール・ルージュ時代へと記憶をさかのぼらせていく。特にリー・ユウ・スリアン監督の苦難の人生には、多くのカンボジア人が被った悲劇を想像させ、心揺さぶられる。

QAによると、監督は、2009年に1年半ほどカンボジアに滞在し、資料を集めに奔走する。60-75年の間、カンボジア映画は黄金期を迎え、400本ほど作品があったが、今や、デジタルで30本ほどしか残っていない。それも国内外のファンがシェアしているもので、VHSからおこしたような質の悪いもの。09年当時、「BOPHANA(ボパナ)視聴覚資料センター」にもほとんど使えるものがなかった。そのうち鑑賞に堪えられるものは10本程度だったという。そんな状況下で、過去の映画作品が「観られない」という状況をそのまま反映させよう、と思いつき、こういう形になった。映像が氾濫し、ファーストフード化する中で、(映像素材を)見せないことによって、逆に印象深くなるのではないか、と考えたという。


以下、映画関連のメモ。うろ覚えの所もあります。
(監督は中華系と思われるが、TIFFの表記に準じて表記)

●リー・ブン・イム(Ly Bun Yim)監督

特殊撮影などを駆使した作品で観客を魅了した巨匠。劇中『海馬現る』のシナリオを朗読したり、自ら分身の術(特殊撮影)を見せる。

(代表作)
『12人姉妹』(12sisters/Puthisen Neang Kongrey)(68)
『海馬現る』(the Sea horse /Ses Samuth)(75)
『アンコール後のクメール』(Orn Euy Srey Orn)(72)
「ソンクロンの花」(挿入歌)

●イヴォン・ヘム(Yvon Hem)監督

1962年、マルセル・カミュがカンボジアで『はるかなる慕情』(Birds of Paradise)を撮った時、妹のナリー・ヘム(Neary,Narie Hem)が女優として出演。その際に、雑用として雇われ、映画界入りする。その後、「極楽鳥スタジオ(字幕ママ)」を設立。今年の8月に逝去。

(代表作)
『ソヴァンナホン』(Sovannahong/Golden Swan)('67)
『イナヴ・ボッセバ』(Ynav Boseeba)(’68)
1969年シアヌーク映画祭で監督賞、撮影賞を受賞。シハモニ王子から賞を授けられる。


●リー・ユウ・スリアン(Ly You Sreang)監督

クメール・ルージュ時代はクラチエ州で木の伐採をする仕事につかされる。いつのまにか村人1000人が殺されて180人に。ベトナム軍が攻めて来たのを機に、国外へ。ラオスのパゴダに押し込められ、食事もままならないまま、精神を病む。フランス大使館関係者に助けられ、パリへ行き、妻と合流するも、妻には男ができていた。アパレル、タクシー会社を経営するも、どれもうまく行かなかった。10年ほど前にカンボジアに戻って来て、家を建て住んでいる。

(代表作)
『処女の悪魔』
ヒマワリと呼ばれたチョウク・ラット(Chok Rath)主演。残っているのはラジオCMのみ。
『聖なる湖』
人気俳優コン・サム・ウンを脱がせ、女性の心をつかむ。池からボパ王女が現れると、蓮の葉で体を隠した。(現代の学生たちが同じ題材で映画を撮っているシーンも。ここでも、役者の演技や、撮った映像は映し出されず、想像させる)

●ディ・サヴェット(女優・監督)

ティ・リム・クゥン監督『天女伝説プー・チュク・ソー』(68)『怪奇ヘビ男』(70)ほかたくさんのカンボジア映画に出演した大女優。現在はダンス教室を経営したり、後任の指導にあたっている。(若い頃は水谷良重風だったが、現在のルックスは岡田茉莉子風)

『ボパ・アンコール』(Bopha Angkor)(72) ディ・サヴェット監督・主演。
若いカンボジアの医師 (ディ・サヴェット) が香港から観光に来た男性 (実生活でも夫で監督の Houy King、(yang ching)) とアンコール・ワットで出会い、恋に落ちる。クメール・ルージュとロン・ノル軍との戦闘シーンが挿入されているらしい。
『巣からはぐれて』(68)
ロケ場所が「ディ・サヴェットの丘」といわれ、ファンの聖地になっているようだ。


●ラスト、レンガの壁に流れていた映画(5作品を流した模様)
『12人姉妹』
『ホワイト・ロータス』
『 泣かずにはいられない』(Pel Del Trov Yum,Peil Dael Truv Yum/The Time to Cry)(72)
ウン・カントゥオック(Ung Kantuok)監督。
ヴィチャラ・ダニーとキム・ノヴァ、そしてコン・サム・ウン主演の女2人と男1人の三角関係を描いた恋愛映画。当時では数少ない女性監督の作品。主題歌も大ヒットしたらしい。


【言及された映画館】
当時、プノンペンには30以上の映画館があった。
・ソリヤ
・エデン
・プノンピック
・ボコール
(カラオケバーになっている?)
・ヘマクチート
(リー・ブン・イムとヘマン・リムが所有。現在,建物は116世帯の住居になっている)
・チェンラー劇場
キャピトル・シネマ
(現在、建物はレストランと遊戯場になている)→別枠で書きました。


【言及された俳優】
モンドリン(Mongdoline)
ディ・サヴェット(Dy Saveth)
キム・ノヴァ(Kim Nova)
ヴィチャラ・ダニー(Vichara Dany)
コン・サン・ウン(Kong Som Eun, Oeurn)
チョウク・ラット(Chouk Rath)
ヴァサナ・フイ(Vathana Huy)ご健在でインタビューに答えていた。
マリナ・キリヴァット?
イップ・ナム・ロザンナラ?


【言及された歌手】
シン・シサモット(Sinn Sisamouth)
ロ・セレイソチア(Ros Serey Sothear)?
パン・ロン(Pan Ron)?

『父の短剣』の主題歌「ソー・マン・チブ」?
「悲しき人生」主題歌?



『12人姉妹』


『アンコール後のクメール』


『泣かずにはいられない』


参考;theatre tokyo/creator’s park スペシャルインタビュー
Vol.2 カンボジア・大衆に支持された映画たち〜ダヴィ・チュウ監督〜
http://creatorspark.info/?p=11686
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