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天女とヘビ男 [カンボジア]

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『天女伝説プー・チュク・ソー』(Poev Chouk Sor)(67)ポスター


第25回東京国際映画祭、今回の「アジアの風」部門の目玉といえば、まちがいなく伝説のカンボジア映画『天女伝説プー・チュク・ソー』(67)と『怪奇ヘビ男』(70)の上映だ。特に『ヘビ男』は国内だけでなく、周辺国で大ヒットを記録したようで、与えた影響も大きい作品。

現在齢80才のティ・リムクゥン監督(おそらく中華系)は奥様のマイランさん、娘のキムさん、お孫さんとともにカナダから来日。上映の際、登壇し、映画保存の背景を語ってくれた。内戦の戦火が激しくなるにつれ、危険を察した監督は、少しずつ、自作の6作品を国外に持ち出した。最後の一本が『天女伝説プー・チュク・ソー』(67)で、持ち出した直後、ポチェントン空港が閉鎖されたという。30年間保管し、去年の2月、ベルリンで公開をした。映画製作に理解を示し、映画を愛していたシアヌーク国王の崩御に哀悼の意を表し、カンボジア国民とともに上映を喜びたいとコメントしていた。(ちなみに故シアヌーク国王は、監督として映画をいくつか撮っている)

まさか、こんなにいい状態で、60-70年代のカンボジア映画を観る事ができるとは思わなかった。荒廃したカンボジアの文化状況を少し覗いたことがある身としては、まさに奇跡としかいいようがない。感激で胸が一杯になった。

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『天女伝説プー・チュク・ソー』((Poev Chouk Sor)('67)
ティ・リム・クゥン(Tea Lim Koun)監督

貧しい小作人ソンバート(チア・ユットゥン)は、父親の代から借金があり、地主から厳しい取り立てにあっている。一方、天女の四姉妹は、父王の留守中に人間界へ遊覧しに来たが、チュク・ソー(白い蓮という意味。ディ・サヴェット)は人間のカルマに触れてしまい、7年間(=天界の7日)、天上に戻れない事になってしまう。
ソンバートに拾われたチュク・ソーは彼の妻になり、魔法の玉で献身的に夫を助けるが、愛を誓った彼女はその玉を沼に投げ捨ててしまう。例の地主は彼女を見初め惚れ込むが、ソンバートが出稼ぎに出ると、地主の4人の悪妻はチュク・ソーを妬み、殴る蹴る、熱湯に顔をつける、など半殺しに。天女姉妹の助けに応じず、病気(マラリア)になって戻って来た夫とともに、彼女は天上に戻らず生涯を終える。

監督は民話の着想ではなくオリジナルといっていたが、天女=アプサラはインド神話を源にアンコールワットの壁画にも刻まれてるし、伝統芸能のアプサラダンスとしても親しまれ、カンボジア人にとって身近な存在。インド神話では、人間男性とも結婚し、様々なものに自在に変化し、よく白鳥に化身するらしい。映画では白ウサギに変身していた。日本の天女伝説も、この辺から由来してそうだ。『ヘビ男』では、仏教ではなく、“土地神様”信仰(何だろう?)が出て来たり、クメール人の古層の記憶に触れるような内容になっている。


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『怪奇ヘビ男』タイ版のポスター


『怪奇ヘビ男』(Puos Keng Kang /The Snake Man/The Snake King's Wife)('70)
ティ・リム・クゥン(Tea Lim Koun)監督

石井輝男監督『恐怖奇形人間』(69)をかるく凌駕しそうなカルトぶり。『天女伝説』とほぼ同じ俳優が出演しているので、その辺も楽しめる。両作品とも、ホラー・ファンタジー映画の範疇を逸脱するようなエロ・グロ・ナンセンスがてんこ盛りで、とても表情豊かな作品だ。
監督によると、「ケンコン蛇」という伝説から着想されたもので、冒頭のパートはその伝説をなぞったもので、あとは創作だという。親・子・孫と、三代に渡る大河ドラマ構成で、ニア・ニーと暴力夫、スリヤーと継母、孫娘と魔女の対立軸をはっきりさせ、164分という長尺だが飽きさせない。


美しい妻ニア・ニーは、一人娘と、酒癖の悪い暴力的な夫と暮らしている。嫉妬心と束縛の強い夫が、出稼ぎで留守にしている間、娘とタケノコ掘りに行った妻は、大きな穴に鍬の先を取られ、刃を中に落としてしまう。そこは「ケンコン蛇」という大蛇の住処だった。大切な鍬の刃を返してもらうために、自分の妻になれという蛇の条件を飲むと、夜毎蛇は家にやってきて、妻と愛し合うのだった。
出稼ぎから戻って来た夫は、家の異変を感じ、妻を外へ追いやっている間、娘と連携してヘビをおびき寄せ殺してしまう。妻が戻って来ると、ヘビのスープが出来ており、それを食べさせられる。月日は経ち、妻のお腹は大きくなっていた。森の中で、夫は追いつめた妻を殺し、腹を裂くと、千匹のヘビが出て来た。足で踏みつぶすも、一匹が逃げていった。

舞台は変わって、とある結婚式。ある村の富豪の男は、若い妻ビアチェプークと再婚する。意地の悪い継母ビアチェプークは、親族と共に富豪の家を牛耳ろうとしている。占い師タパエから運勢を占ってもらったところ、富豪の娘ソリヤー(ディ・サヴェット)がいい人と結ばれ幸せ者になる、と聴いて、ソリヤーに嫉妬、邪魔者扱いし、家から追い出してしまう。ソリヤーは侍女たちと別宅で暮らしていたところ、一人のハンサムな男性が現れ、二人は結ばれることに。その男こそ、ヘビ男(チア・ユットゥン)だった。(彼女の歌につられ、ついて来てしまったのだ)
それを知った継母は、嫉妬と野心を滲ませながら、老婆の魔女ところへ相談しに行く。すると、ソリヤーの男が実はヘビであり、彼をヘビに戻すために薬を飲ませ、彼が持つ魔法の指輪を手に入れることを示唆する。案の定、宴のドサクサに薬を飲まされたヘビ男は、変調に気づき、ヘビに戻るのを悟られまいと逃げるが、妻ソリヤーは彼を追いかける。洞窟で、元のヘビになり、そして、老婆の呪いから石化してしまう。

数年の月日が経ち、ソリヤーには娘が生まれていた。髪の毛がメドゥーサのようにヘビになっている。(実際に子役の頭の上に生ヘビがのっている。今だったら、きっと動物&児童虐待かも?)人目を忍ぶ母親のかわりに、娘は頬っかむりをして、祀られている土地神様の供え物を食料として調達している。ある日、母親ソリヤーは老婆の魔女に捕まってしまい、口移しで何かを飲まされ、意識喪失し、気が変にってしまう。
森の中で出会ったインコの助け(微笑ましい)もあって老婆の住む洞窟をつきとめた娘は、母親と同じ目に遭いそうになるが、髪の毛の子ヘビのひと噛みで、危機を脱する。夜、老婆が胴体を残して、首だけで食べ物を探している際に、魔法の指輪を取り戻し、母親を助け出す。そして、首が戻った所をとらえ、焼き殺してしまう。指輪を取り戻し、老婆の呪いもとけた三人は、幸せに暮らす。

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