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影のない世界 [マレーシア]

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今日は、渋谷オーディトリウムで「ドキュメンタリー・ドリームショー山形 in 東京 2012」のプログラムの中から、『鳥屋』(’06)で知られるクー・エンヨウ(邱涌耀)監督の『影のない世界』('11)(原題:Wayang Rindukan Bayang)を観てきた。
マラッカを舞台に華人兄弟のバトル?を描いた『鳥屋』も面白かったですが、こちらのドキュも期待を裏切らない作品だった。(9月8日にポレポレ東中野で上映があるようです。)

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舞台は、マレーシアでも特にムスリム色が濃い地域・クランタン州。意外にも、ここでは伝統芸能として親しまれてきたワヤン・クリの衰退が著しく、60年代は140人いた影絵人形師が今では15人足らずになってしまったという。カメラは彼らダラン(影絵人形師のこと)の現状とワヤン・クリ衰退の原因を探って行く。影絵劇の枠組みで物語られるアイデアが面白い。(パ・ドゴルとワ・ロンの道化のキャラクターの掛け合いが挿入される)

ワヤン・クリは本来、稲刈り後の田んぼで上演されたという。メシラ村では、かろうじて小さなワヤン・クリ専用の小屋が存在している。
そういえば、僕が影絵芝居を初めて観たのは'94年頃で、コタ・バル(クランタン州の州都)の文化センターみたいな所だった。マレーシアの伝統文化を知るプログラムで、音楽、ダンス、影絵のパッケージで、正直、パッとしない内容だった。劇中、地元民はワヤン・クリを見なくなってしまった、観光客向けになってしまった、と人形師たちが嘆いていたことに、妙に合点がいった。この時点で、もう衰退していたのかもしれない。

1990年にPAS(全マレーシア・イスラーム党)がクランタン州の政権につくと、歴代の州長官はワヤン・クリを実質的に禁止する。(現代的なワヤンを創作しろという無理強いも)このPASという政党は、イスラーム法に基づく国家建設を目指す政党で、原理主義的な傾向があり、ワヤン・クリッが偶像崇拝にあたること、ヒンドゥー教の物語であることを問題視しているようだ。冒頭の方で、人形を作る過程があったが(〜剥いだ牛の皮をなめし、下絵を張って、彫刻して行く)、昔はアルビノ(先天的にメラニンが欠乏する遺伝子疾患)の牛や、火曜日の午後、落雷に打たれて死んだ牛の皮を使うという慣習があったらしい。また、公演の前の儀式や呪文などイスラームに反する部分にも当局のお咎めがあるようだ。

福岡アジア文化賞も受賞したことがある影絵人形師の巨匠ハムザ・アワン・アマット(Hamzah Awang Amat )とドラ・ジュバーン・メラ(Dollah Bajung Merah)の話題もあった。禁止されていた期間、彼らは海外公演に活路を見出していたらしい。(彼らの事を演劇で表伝える劇団)

中国系の人形師(ヨー・ホック・セン氏ほか)がいるのも意外だった。当局は、中華系やタイ系のワヤン・クリには寛容らしい。あくまでもイスラム教徒への戒律遵守を求めているようだ。
中国寺院に祀られている斉天大聖・孫悟空がハヌマン風(タイ風、インド風の混在)であるところは、中野美代子先生の著作を思い出す。マレーシアのワヤン・クリはカンボジア〜タイ経由らしいし(ジャワ由来の説もある)、ムアイ・タイ(マレーシアでいうトモイ)などの人気ぶりもかいま見られて、東南アジアの文化受容の面白さも感じられた作品だった。

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