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タイガー・ファクトリー [マレーシア]


"Tiger Factory"(2010) film by Wu Minjing

今年のTIFF2010で最も強烈な印象を残したのはウー・ミンジン監督の『タイガー・ファクトリー』+エドモンド・ヨウ監督の短編『インハレーション』だった。

上映後、『インハレーション』のエドモンド・ヨウ監督のQ&Aがあった。(ウー・ミンジン監督も来日していたようだが、この時点で、すで帰国されたらしい)
短編『インハレーション』は、『タイガ〜』の派生的な映画で、登場人物が重複している。ウー監督とヨウ監督は互いの作品で、プロデューサーと共同脚本を兼ねている。また、この映画は早稲田大学大学院国際情報通信研究科の安藤紘平研究室との共同製作で、エドモンド・ヨウ監督が同研究室に在籍していた縁から成立した企画らしい。


『タイガー・ファクトリー』

日本へ行って働くことを夢見ているピン。彼女は養豚場とレストランで働いているが、渡航費用を工面するために伯母の指南する闇家業に手を染める。それはミャンマーからの不法就労者の男を利用した「代理母」家業だった。産まれた赤ん坊は高額で取引されるのだ。

その作風は、社会の底辺で逆境の中逞しく生きる少女を淡々と追った『ロゼッタ』を思わせるが、なんともグロテスクな映画だった。その理由は主に2つ。養豚場の豚の”種付け”作業と人間の”種付け”が並列されること。もう一つは、主人公を初め、登場人物のほとんどが、「金」に執着して行動しているからだ。

エドモンド・ヨウ監督(この映画ではプロデューサー)の説明によると、舞台に想定している中華系のコミュニティはKLから車で1時間ほどにあるポートケランという場所らしい。調べてみると、日本へのコンテナ貨物船の定期航路がここから出ているようだ。日本への密航なんて、90年代の話しかと思っていたが、ヨウ監督の説明では今も現実味があるらしい。日本留学中のヨウ監督は、親戚からそのまま帰らず日本に残っていなさい、と言われるそうだが、中華系にとっては、マレーシアという国は、想像以上に生きづらい場所にになっているのだろうか。実は、僕は途中まで、彼女たちが大陸からの出稼ぎ者だと思っていた。

ミャンマー人男性のカンと主人公のピンが小汚い一室で”種付け”作業を重ねて行くうちに、ある種の人間愛が描かれる・・・と思いきや、ドンデン返しがある。密告。警官(インド系)のゆすりの手口。あらゆるものが、徹底的に「金」と交換される。産まれた子供さえも。ミャンマー人の不法就労といえば、アピチャッポン監督の『ブリスフリー・ユアーズ』を思い出すが、マレーシアにいるミャンマー人はきっとムスリム系が多いのだろうと想像していたが、どうなのだろう?

特筆すべき事は、この映画にはマレ−シアの多数派であり”土地の子”であるマレー人が1人も登場しないこと。(マレー語は共通言語として飛び交うが)その理由が、ムスリムにとって禁忌の動物「豚」(中華系にとっては繁栄の象徴だが)が全面に出てくるからなのでは?と半分本気で思ったりもする。しかし、描かなかった事によって立ち上がってくるもの、彼女たちを生み出す背景・装置にこそ、監督たちの狙った批判の矛先があるのではないだろうか。そういった意味で、この映画はまぎれもなくマレーシア映画なのだと思う。




"Inhalation"(2010) film by Edmond You


『インハレーション』

釜山映画祭で短編映画グランプリ。(上映はこちらの方が先だった。)
ピンの友人であり、養豚場の同僚であったメイは、ボーイフレンドのセンと別れて、日本へ密入国する。しかし、一ヶ月足らずで強制送還される。渡航費用にかかった借金を返す当ても無く、センに相談。センには新しい恋人が出来ていた。歯車の食い違ってしまった2人は、夜通しののしり合う。そして夜明けを迎える。

センがメイに現実に眼を向けろといって諭すシーンがあったが、そこで近年マレーシアで起きた政治がらみの事件、趙明福事件 教会放火事件モンゴル人女性殺害事件などがあげられていた。
また、『インハレーション』の中国語タイトル『都是正常的』はエドワード・ヤン監督『独立時代』(放題 :『エドワード・ヤンの恋愛時代』)の中のセリフからとったものだそうだ。

            *


ウー・ミンジン監督の処女長編作『マンデー・モーニング・グローリー』(2005)についての関連記事:http://e-train.blog.so-net.ne.jp/2006-10-15

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