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稲作ユートピア [タイ]


Agrarian Utopia trailer





アピチャッポンの次に覚えなくてはならないのは、ウルボン・ラクササドという名前かもしれない。
ドキュメンタリー・ドリーム・ショーで、ウルボン・ラクササド監督の『稲作ユートピア』を観て来た。
                     *

チェンライ県テルン郡のとある農村。2組の小作農の家族が1年を通して稲作する過程を追ったドキュメンタリー風の作品。実際の農家に彼ら自身を演じてもらい、撮影に臨むという方法で製作されている。これはカンボジアのリティ・パニュ監督の得意とする方法だ。デジタルカメラとはいえ、考え抜かれた構図、美しい自然に息をのむ。

小作農は1回の収穫につき、2万バーツを売り上げるが、そのうち1万2000バーツを地主がとり、残り8000バーツを二家族で分け、手元に残るのは4000バーツほど。2毛作なので、年間8000バーツ(およそ24000円)の収入しかない。
これでは食えないので、どうするかというと、「狩猟」である。
蟻の幼虫、蜂蜜、蛇のサラダ、魚、ネズミの炒め物。キノコ狩りは重要な現金収入になる。「何か足りない」「酒だ」「急死なら医療費は浮くな」「納骨塔は要らない。その分、子供の教育費にかけたい」「子供を小作農にさせたくない」そんな会話をしながらの食事。食べる姿に悲壮感はなく、タイの豊かな自然の恵みに感心してしまう。

一方、カメラはプロムという、かつて教師だった男の姿を追う。彼は自然保護区の中で暮らし、自然農法を追求している。(実際の大学教授らしい)その姿を遠目で観ながら、蔑視する小作農たち。だが、ある時、地主から、車のローンが払えないので、農作地を売る事にした、と告げられてしまう。途方にくれる小作農だったが、プロムに、土地の借地代はいらないから、自分の所で働くように促される。しかし、化学肥料は禁止。それでは収穫量が少ないし、儲けが出ないと、プロムと意見が合わない。
バンコクではデモの様子。民主記念塔のそば。PDAやPDAに反対する人の怒号。「ソムキアットとソムサンの首をとろう」「ソンティとチャムロンの最低野郎」「PDAが国を破壊する」・・・云々。建設途中のコンクリートの柱のたもとに横たわる出稼ぎ農民たち。

 *


上映後、バンコクポストで映画評を書いているコン・リッディーさん(雰囲気が浅田彰風)のQ&Aがあった。

・農業は国の根幹をなす物で,映画の中には,政策の失敗も見受けられる。デモの様子は2〜3年前の出来事。映画は先月タイで公開された。土地改革のNGOの試写では農民も招待された。
・監督は村のインサイダーでもあり、アウトサイダーでもある。舞台の村の出身で、一度は都会に出て住んでいた。ある種の懐かしさ、郷愁が出ているのはそのせいだろう。
・ 撮影方法としては、1年間一緒に撮影のために稲作作業をしてもらった。演じている、演じ直してるといっていい。本当のドキュメンタリーとは言えないが、真実が描かれている。アシスタントは一人だけ。監督は撮影と録音を一人でやった。子供時代に戻ったような喜びがあったといい、プロデューサーが止めろというまで撮り続けたという。
・ 『Agrarian Utopia(農業ユートピア)』(原題)というタイトルはアイロニーが含まれている。クメール・ルージュが使った言葉でもある。農家からの側面、有機農法からの側面、都会からの視点がある。ユートピアの二重性、両義性がうまく込められていると思う。
・『東北の物語』という短編シリーズの中の一編『コメの歌』という作品がきっかけで、ロッテルダム映画祭からファンドを受けた。
             

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