気まぐれな唇 [韓国]
『気まぐれな唇』ホン・サンス監督(韓国)
「宙ぶらりんの時期」というものが誰にでも1度くらいは訪れる。それは浪人時代だったり、会社を辞めた時だったり、恋人がいない時期だったり…。
劇中の主人公、新人俳優のギョンスは、ある自主映画に出演するが評価は散々。失意の中、ソウルから春川(チュンチョン)の先輩の家へ訪れる。自分が何者であるのか、俳優としてやっていけるのか、心の中は不安定で、まさに「宙ぶらりん」の状態。そんな旅の中で二人の女と出会い、自分の存在を確かめるように肉体を重ね合わせる。
この映画が女性に受けが悪いのは、男の純粋で愚直な部分と、女のしたたかな部分がとても対照的に描かれていているからかもしれない。ベッドシーンでの女たちはとてもセクシーだ。ピンク色に染まった頬の紅潮はとても演技とは思えないリアリティーがある。
そして全編に流れる独特のユーモア。先輩がギョンスに諭すように言う『人として生きるのは難しいが、怪物にはなるな』、『人に人以上のことを要求するな』といった、なんだか胡散くさい教訓めいた言葉がアクセントとして光る。
物語が清明寺の回転門(ターニングゲイト)の伝説になぞらえているのも面白い。春川や慶州(キョンジュ)という古都が舞台だというのに、景勝地は一切出て来ない。韓国のどこにでもあるようなありふれた町並みの中で物語りは展開される。だから僕は水原(スウオン)という町を一人歩いたことを思い出し、いつのまにか自分自身をギョンスに重ねあわせてしまっていた。
今、「宙ぶらりん」状態の人はまちがいなく共感を呼ぶだろうし、かつてそうだった人は懐かしく微笑ましく思うだろう。一見すると地味な映画に思えるかもしれないが、これはまちがいなくロードムービーの傑作だと思う。(★★★★ )
初出「旅シネ」より
気まぐれな唇/Turning Gate
2002年/韓国
監督・脚本:ホン・サンス
出演:キム・サンギョン、チュ・サンミ、エ・ジウォン
配給:ビターズエンド
上映時間:115分
公開:2004年1月31日テアトル新宿にて公開
公式サイト→http://www.bitters.co.jp/kimagure/index.html
関連ホームページ→http://www.bitters.co.jp/
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