SSブログ

TIFF2011 (前篇) [アジア総合]

第24回東京国際映画祭。今年も「アジアの風」を中心に観た。
『ラジニカーントのロボット』のチケットを逃したほかは、ほぼ観たい物が観られた。

今回は、飛び抜けて傑出したものはなかったように思うけど、完成度が高く、骨太で堅実なドラマ作品が多く、「一つに選べない」というのが本音かも。(スペシャルメンションが三つという受賞結果がそのへんを物語っていると思う。)
この時勢柄か、自分の求める映画も変化しつつあるような気がしている。どちらかというと娯楽作品が観たくなっている。というわけで、一週間のツイッターでのメモを訂正・加筆してまとめてみました。お気に入りには星☆をつけています。

                    *

【10月22日(土)】
東京国際映画祭・第1日目は『メカス×ゲリン 往復書簡』、フィリピン映画『浄化槽の貴婦人』。両方とも「映画」をテーマにした作品で、映画祭の初日に相応しい感じがした。(日比谷シャンテ)そのあと、中国映画週間で『愛のしるし』。(有楽町・スバル座)


●『メカス×ゲリン 往復書簡』ジョナス・メカス、ホセ・ルスイス・ゲリン両監督

両監督のビデオレターが交互に流される。メカス作品はNYをベースに老境に達したようなラフで気ままな作風。ゲリンは生真面目な映画青年という感じで、モノクロ映像で世界各地から映画史を語る。在りし日のオルリー空港から、ラストの北鎌倉にある映画監督の墓まで。
3.11直後に編集したらしく、核を心配する声。前年、来日した時の新潟や東京の映像。涙腺が緩み、現実に引き戻される。また、スロヴェニア出身のニカという女性が、フィリピン映画研究者の恋人とマニラに移住してすぐに殺害されたというエピソードが強く印象に残った。メカス監督は、昔撮影してアウトテイクになったものをまとめて『フッテージ』なる作品を作る、と語っていたが、その中に飯村隆彦、ケン・ジェイコブスの姿も。



septictank.jp.jpg

●『浄化槽の貴婦人』マーロン・リベラ監督 ☆

邦題が秀逸。幼児売春をさせる母親の映画を撮ろうとしている若い映画クルー。母親役を誰にしようか思案した結果、ユージン・ドミンゴ(超有名コメディエンヌ)にお願いすることに。フィリピン・インディ映画界を痛烈に皮肉った爆笑コメディ。腹がよじれた。


aino.jpg

●『愛のしるし』(秋之白华)霍建起監督

霍建起監督だし、魯迅周辺が描かれると思って期待して観たけど、魯迅は写真と書のみの登場。国共合作が模索される中、夫のいる教師・楊之華が、共産党の初期指導者の一人である瞿秋白と上海大学で知り合い、愛を育くんで行く様子を繊細なタッチで描く。しかし、もっと国民党軍を辛辣に描かなきゃ盛り上がらない。現在の中共が劉暁波たちやチベット人やウイグル人に対してやってるように。董潔は漂亮だったけど。主演スターが二人もゲストで来てるのに客の入りが少ない。ちょっとかわいそう。中国映画週間は初めての参加ですが、こんなもん?

                   *

【10月23日(日)】
TIFF2日目(23日)。マレーシア出身で日本在住のエドモンド楊監督の短編『避けられる事』+リム・カーワイ監督の『マジック&ロス』(以上、日比谷シャンテ)、シンガポールのエリック・クー監督が辰巳ヨシヒロの漫画をアニメ映画化した『TATSUMI』を観た。(六本木TOHO)いずれもアジアを越境して日本に還流するような作品。


●『避けられる事』エドモンド・ヨウ監督

高校時代の級友ヨウスケが事故で亡くなった知らせを受けたナオコ(杉野希妃)。友人のサユリ(篠原ともえ)の運転する車で故郷の街へ帰る。事故現場を訪れた後、クラスメイトだった男に、意外な事実を知らされる。ささくれ立った喪失感がモノクロの美しい画面に落とし込まれる。

●『マジック&ロス』リム・カーワイ監督

ランタオ島・梅窩 (ムイウォ)のとあるリゾートホテルにやって来た韓国人のコッピと日本人のキキ。満室の表示なのに客が一人も見えない。ただベルボーイが一人いるだけ。近くには大きな滝があり、二人の関係に大きな作用を及ぼす。幽玄の世界に迷い込んだような謎めいた作品。



Tatsumi.jpg

●『TATSUMI』エリック・クー監督

辰巳ヨシヒロの自伝的マンガ『劇画漂流』を元に、戦後昭和史と自身の歴史が本人のナレーションで語られる。合間に『地獄』『愛しのモンキー』『男一発』『はいっています』『グッドバイ』などの名編。病弱の兄との確執、手塚治虫との関係、劇画工房結成など、マンガファンは必見。


                   *

【10月24日(火)】
TIFF3日目。寝不足だったけど案外乗り切れた。(朝、六本木。午後から日比谷)


YouAretheApple.jpg

●『あの頃、君を追いかけた』ギデンズ(九把刀)監督

台湾の人気作家でもあるギデンズ(九把刀)監督作。’94年の彰化を舞台にした青春群像劇。かわいい女の子の指南で猛勉強をしはじめたコートン。二人はいつしか相思相愛になるが、想いをうまく表現できない。笑いのセンスがマンガ的で独特。台湾にはやっぱり裸族いるのね。
コートンが大学で自らファイト・ゲームを開催するが、開催理由にもうちょっとリアリティが欲しかった。ラスト、笑いと切なさと涙を誘う。この「泣き笑い」に力量を感じた。Stay Foolishの映画。

cure.jpg

●『金で買えないもの』(金不換)葉剣峰監督

香港の監督がタイで撮った作品。ビタミン剤を特別な薬だと偽って詐欺を働く男ニュー(名前)は、相棒を失い、一人旅して行くうちに様々な事情の人々に出会い、改心して行く。香港映画の派手さはないが、しみじみさせてくれるタイらしい良作。09年の赤シャツデモ〜北部への旅。

11-flowers-2011-1.jpg

●『僕は11歳』(我十一 )王小帥監督 ☆

’75年の西南部のとある村。ハン少年は母親に新調してもらったシャツを、川遊び中、逃亡中の殺人犯に止血用として奪われてしまう。誰にも言うなと口止めされた少年。犯人は父親の友人家族の長男で、ある事情が。文革末期の労働者の対立(保皇派と411)も背景に、切なくも重厚なドラマ。

                   *

【10月25日(火)】
TIFF4日目(25日)映画メモ。中国映画週間で『消えゆく恋の歌』(有楽町・スバル座)、コンペでタイ映画『ヘッドショット』、アジアの風でインドネシア映画『鏡は嘘をつかない』。(六本木)

chang-ming.jpg

●『消えゆく恋の歌』章明監督 ☆

女子高生の小漾は、馮岡先生に音大受験の指導を受けている。馮岡は紫陽県の民歌を振興させるための劇団に所属。いつしか二人は恋愛関係に。一方、幼なじみの張学鋒は海軍を辞め紫陽に戻る。父親に取り付いて彼女に接近する。ある時から三人の関係が変化し始める。
公安局に勤める父親は人は悪くなさそうだが、どこか不気味な存在。娘の部屋を盗撮したり、張学鋒の父親である県長と何やら密談したりして、数年後、局長に昇進する。人間関係の濃さゆえか。青春恋愛映画のジャンルだが、切ないというよりはスリリングで、強烈な後味を残す。
馮岡先生のお顔が貧弱なのが残念。(張学鋒の存在感に負けてるという意味で)


headshot.jpg

●『ヘッドショット』ペンエーグ・ラッタナルアン監督 ☆

刑事から暗殺者になったトゥルは、頭に銃弾を受け、視界が上下逆さまに。7年前に起きた事件から、追っ手に追われる今を時系列バラバラに描くハードボイルド。構造の複雑さに頭フル回転。スリリングな展開に息つく暇もない。ペンエーグ監督のベスト3に入る映画だと思う。
ただ、視界が上下逆さまになるアイデアはもっとスリルな場面を作り出すことができたのではないか。大して活かしてないのがもったいない。タイのラッパーJOEY BOYが重要な役で出ていた。物語の背景も近年のタイの政治情勢が慮られ、「正義とは何か」の思索が読み取れる。『レイン』も想起。


MirrorNeverLies.jpg

●『鏡 は嘘をつかない』カミーラ・アンディニ監督 ☆

パキスの父親は漁に出て行ったきり行方不明。父親の言葉を実践する少女は周囲と齟齬。特に母親との確執は最悪。ある日ジャカルタからイルカの研究者がやって来て、少女の家に滞在することに。ワカトビ諸島・バジョ族の生活風景と映像も素晴らしい。
娘がもう少し歳が上なら母親との緊張関係がさらにアップすると思ったが、解説を見ると12歳となっていて妥当だと思った。(外見がもっと幼く見えてしまう)母親はミャンマーの日焼け止め・タナカーぽい物を顔に塗っているが、それを若い青年が拭いてとるシーンは、服を脱がすシーンの代替行為なのだろう。
この映画、ある意味エロチックなシーンが多いと思うけど、インドネシアゆえに限界と感じる部分もあり、また、それだからこそ表現が詩的で多彩になるという長所もあって、何ともいえない。(できたら両方観たい)楊徳昌の『指望』、つげの『赤い花』、父親ガリン監督の三角関係ものを想い出す。

(後篇へつづく)
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

南京!南京!TIFF2011 (後篇) ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。