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亜洲の基督 [ベトナム]


Nude(scotch mist version) - Radiohead(2007)



トラン・アン・ユン(チャン・アィン・フン、Trần Anh Hùng)監督の9年ぶりの新作、『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』を観てきた。

『シクロ』(1995年)ではかろうじて内にとどまっていた狂気と暴力性が、一気に前面へ噴出したという感じだ。シクロ運転手が塗りたくっていた青い塗料が、今度は赤い血に代わり、トラン・ヌー・イェン・ケーの黒髪は茶髪になっていた。
今回は『羊たちの沈黙』やデビッド・リンチ的なサイコ・サスペンス調なので、カット数も多いし、テンポも早いので見過ごされそうですが、トラン・アン・ユンの詩的な世界観、独特の視点、クリエイティビティは全く健在だと思いました。撮影はいつものブノワ・ドゥロムではなく、ハリウッド映画をよく撮っているファン・ルイス・アンチアというスペイン人みたいだ。静物画を撮るように、というわけにはいかなかったのだろう。

映画は「イエスの受難」をなぞっているのは誰が観てもわかるのですが、あまりの大ネタとその無防備さが少々心配にもなります。監督はフランスで育ったからといって、クリスチャンというわけではないそうで、それではなぜ、アジアでイエスの物語なのか。(素直に受けとれば、アジア人のキリストの復活=「アジアの新世紀」の始まりを描いているようにも見える。)


クラインというアメリカ人の主人公が、他者としての湿潤のアジアへ分け入って行く様子は、舞台こそフィリピン・ミンダナオ島ですが、「ベトナム」を思い出させずにはいられない。罪の意識に苛まれ、怯え、魂の救済を求めているのは、ベトナム戦争、そして9.11以降も、世界を混沌とさせてしまった彼の帝国。ベトナム出身のトラン・アン・ユン監督は懺悔を促しつつ、赦している。そんな風に深読みすることは可能だろうか?

トラン・アン・ユン監督がレディオヘッドの音楽を使うのは、『シクロ』についで二度目。彼らの音楽を相当気に入ってるんだなあ。劇中でも使われていた上の『ヌード』という曲のPVは、映画の世界観に似たものを感じさせます。死体を使った異形のアート作品と、メインキャラたちのの裸体の対比、シタオが密林で培った法力で怪我や病気を法力で治す所は、現代社会が失ってしまった、人間本来の身体性の回復を訴えているようにも感じた。自己の肉体を知る事は、自分自身を知る事・・・というのはヨガの考えですが、リリ(トラン・ヌー・イェン・ケー)も瞑想しているシーンがありました。

そういえば、サム・リーがちょい役で出ていた。マーケットを意識したキャスティングの成果か、客層は大半が女性でしたが、過激で生理的な描写からか?数人が退席していた。これから観る人は要注意。この監督が次回作で『ノルウェイの森』を撮るというのですが、いったいどんな風になるのか、想像もつかない。



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