SSブログ

香港・日本インディペンデント映画祭 [香港特区]

hkjp.jpg

「日本・香港インディペンデント映画祭」@テアトル新宿 4/15~21

マレーシア出身で『新世界の夜明け』や『マジック・ロス』で知られるリム・カーワイ監督は、最近では香港のプロダクションで長編を撮って中国本土で公開されたようですが、そんな香港と日本をよく知る監督が日本/香港のインディペンデント映画を両地域で紹介するプログラム。2本立てというのも画期的だ。

『乱世備忘』(のちに試写で鑑賞)は、すでにけっこうな数の雨傘運動のドキュメンタリー番組を見ていたので、パスしてしまった。(地上波ではなく、BSでよくやっていたのです)香港インディペンデントの旗手といわれるヴィンセント・チュイ監督『憂いを帯びた人』『狭き門から入れ』(DVD購入)も、見逃してしまったが、スケジュールの最終日に監督の興味深いトークが聴けた。個人的には未見の日本映画にも驚かされた。

また、大陸から亡命生活を送っていた応亮監督の短編はもう一つの視点を示していて重要だと思った。その作品を生ぬるいと言ってるツイッターを見かけたが、本当に何もわかってないなあ、と呆れる。だから、自分は安易に雨傘マークをつけられない。






【2017年04月18日(火)】
内田英治監督『下衆の愛』('15)とリタ・ホイ監督『哭き女』('13)の2本立てを観て来た。ベクトルの違う作風の両監督のトークは異種格闘技、というか、微妙に噛み合ない?という緊張感もあった。


『下衆の愛』(2015)内田英治監督(日本)

女にだらしなく自堕落な自主映画監督・青木(渋川清彦)は何年も映画を撮っていない。新人女優と出会い再起するが…。これは滅法面白かった。相棒マモル役がどこかで見た顔、と思ったらよく見るBS旅番組に出演の細田クン。監督の部屋に貼ってある写真が晩年のカサウ”ェテス監督だった。


下衆の愛DVD

下衆の愛DVD

  • 出版社/メーカー: SDP
  • メディア: DVD




『哭き女』哭喪女(2013) リタ・ホイ監督(香港)

葬式で遺族の代わりに死を悼む哭き女をするミンは、ある日、幽霊リンを観るようになり…。過去を召還する巫堂的な世界観が展開。鏡像、シンメトリー、生と死など陰陽的な記号をはじめ、道教的伝説の羅酆山が香港という都市に重ねられる。”ここは酆都であり地獄である”という政治的暗喩。
アート志向でかなり難解なところもあって、ミンは哭き女という職業ではなく、オーバーラップさせてるだけなのかもしれないが。足の悪い車椅子の夫(彼氏?)が、雨傘革命らしきシーンでは自由に歩いていたシーンが象徴的。ミンとリンの対比と幽玄世界がリム監督『マジック&ロス』を彷彿。

nakionnna.jpg


【2017年04月19日(水)】
山本政志監督『水の声を聞く』('13)とツァン・ツイシャン監督『河の流れときの流れ』('14)を観て来た。劇映画とドキュメンタリーの違いはあるけど、どちらも家族のルーツやアイデンティティを扱っている。


『水の声を聞く』(2013)山本政志監督(日本)

在日3世のミンジョンは友人の誘いから巫女をはじめるが、評判を呼び宗教団体「神の水」の教祖に。ヤクザに追われる実父、教団に集う訳ありな人々が絡む娯楽作ではあるが、済州島にあるルーツを探るハングルの会話はドキュのよう。戯画化とリアリティのバランスが気になるところ。


水の声を聞く [DVD]

水の声を聞く [DVD]

  • 出版社/メーカー: アムモ98
  • メディア: DVD





『河の流れ時の流れ』[河上隻村](2014)ツァン・ツイシャン監督(香港)

新界・西貢区にある蠔涌村。60年代、村から欧州(パリ・エジンバラ・カレー・ロンドン)に移住していった劉家の人々の歴史と、10年に1度行われる太平清醮の祭り(取龍水・放生会・化大士など)の様子をとらえたドキュ。海外へ出ても香港人としての矜持を持ち続けてる姿。
なんといっても劉家のグランマと2男4女の何とも言えない顔つきが印象に残る。似顔絵描けそう。

flow.jpg



【2017年04月20日(木)】
濱口竜介監督『The Depths』('10)と香港の今がわかる短編集〜『九月二十八日・晴れ』『表象および意志としての雨』『遺棄』を観て来た。フィルメックスで見逃していた『The Depths』がかなり凄い作品で驚く。


『The Depths』(2010) 濱口竜介監督 (日本)☆

写真を撮るという行為の深層にある無意識の欲動に迫ったミステリ。大雑把に言うと、妻子ある韓国人カメラマンが自分の思いもよらぬ同性愛の欲望に気づく、という話だが、そこに至るまでの先の読めないスリリングな展開に唸らされる。
アントニオーニ監督の『欲望』('67)を下敷きにしてるのは間違いないと思うけど、民族・ジェンダーの問題にまで揺さぶりをかけているのが凄い。一部、配役の魅力・演出不足?が気になるけど、でもそれも妙な味になってるかも。
親友の吉秀(ギルス)の結婚式のため東京にやってきた韓国の売れっ子カメラマン・ペファン。ギルスの新婦が式場から失踪して騒ぎになった際、偶然若い男の姿を写真に収める。リュウは男娼である事件に関わっていた。ギルスのスタジオでペファンはリュウと再会、彼をモデルに起用したいと申し出る。

depth.jpg


「香港の今がわかる傑作短編集」(香港)

『九月二十八日・晴れ』(2016) 応亮監督
高齢者住宅に独り入ろうとしている父親に、一緒に住もうという娘・玉然。父親は何も言わずデモに行く娘を見送る。応亮監督は大陸出身で当然中央政府とダイレクトに関わってたわけだから、デモへの距離感は当然に思え、一緒に住もうという言葉は意味深に聞こえる。

『表象および意志としての雨』作為雨水:表象及意志(2015) 陳梓桓監督
デモが行われる時に必ずといっていいほど雨が降る。これは中央政府による人工投雨ではないか、と調査するフェイクドキュメンタリー。ブラックユーモアが効いている。

『遺棄』(2013) 麥志恆監督
中でも白眉。父親の自殺によって取り残された少年の魂の彷徨を描く。青菜炒めとごはん(ひっくり返った弁当も)を無心に食らう少年は、多分大丈夫だろうと思わせる。キャスティングが素晴らしい。今後が楽しみな監督。


【2017年04月21日(金)】
『新世界の夜明け』は既に観ているので、『アウト・オブ・フレーム』だけ鑑賞。

『新世界の夜明け』リム・カーワイ監督

北京の女の子(何不自由なく育った80后世代)が恋人とうまくいかず、一人でクリスマスを大阪で過ごすことに。しかし、紹介された宿は大阪・新世界にある 木賃宿をリノベしたゲストハウスだった。軽妙な笑い、無国籍アクションの芳香も放ちながら、日中の典型イメージを逆転させる巧みな物語。在日中国人たちを通して多面的な中国を語る。
2011年度の年間ベストの5位に挙げている。もう6年前ですか。大阪・新世界を縦横無尽にかけめぐるカメラワークは必見。


outofframe.jpg

『アウト・オブ・フレーム』[片甲不留]ウィリアム・クォック監督

北京郊外にある「宋荘」芸術村。唐平(タン・ピン)は長年黒く塗り重ねる「黒い絵」を描く事に拘り続けている。(奥原浩志監督の『黒い四角』(2012)を思い出す。)2012年、当局によって監視下におかれた芸術村から、唐平の家族は借り手いた家雄を追い出され、「東村」の新しい芸術村へ移ることを余儀なくされる。一つ一つ売っていた作品だったが、新しい村では競争が激しい。なんとか仲間うちで展覧会を開催したが、それも当局によって止められていまう。抗議の意味もこめ、唐は自らの血を使って絵を描き始める。一方、金持ちのパトロンに見初められた弟分のホアンは(ペニスの造形物で)売れっ子になっていく。ある日、女性映画監督のメアリーが村を訪れ、本当の芸術家を捜していた彼女は唐平を認め支えようとするが、彼は警察に逮捕されてしまう。釈放後、唐はますます過激なパフォーマンスアートへ身を捧げていくが…。
最後に宋荘を追われ辺地で2014年雨傘運動を支援表明すると半年拘束された、との文章。
そして兪心樵の詩が引用されていた。→https://shukousha.com/column/liu/4455/



上映後、カーワイ監督、クォック監督とヴィンセント・チュイ監督を交えての鼎談。
こういうことは毎日起きていて、公安から監視されている。主人公みたいな人も実在するけど、ホアンのように売れてる人もいる、とリム監督。
大陸で映画を撮るのはなぜか?という質問に、クォック監督は、中国で資金が集められたのと、中国でたくさん起きている事が、次に香港ではどうなるのか、見据えたい気持ちがある、との答え。
ジャ・ジャンクーのスタッフ、ユー・リークワイも、インディペンデントの場を求めて香港から中国へ渡った1人ですね、とリム監督。
香港の監督たちの大半は主流(メジャー)へ入りたがってるのではないか。メジャー映画は中国資本に頼ざるをえない。私は、映画以外は何も出来ない。あと、撮れても2〜3本かもしれないから、好きなものを撮って行きたい。とチュイ監督。
芸術の結晶体が映画だと思う、とクォック監督。

関連記事→https://e-train.blog.so-net.ne.jp/2008-09-05
    →https://e-train.blog.so-net.ne.jp/2018-10-24

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:映画

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

タレンタイムArt Through Our Eyes ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。