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2016年度映画ベストテン [映画ベストテン]

「旅シネ」に寄稿した2016年度ベストテンです。


                 


1.痛ましき謎への子守唄(ラヴ・ディアス監督/フィリピン)
フィリピン建国の呪われた歴史を8時間超(!)という長尺で描くベルリン銀熊賞受賞作品。ホセ・リサール処刑後の独立革命派の権力闘争をリサールが著した小説の登場人物たちと交錯させるという試み。モノクロ映像、哀愁あるギターの音色、リサール辞世の詩を朗読するシーンが感動的だ。東京国際映画祭にて。ヴェネチア金獅子賞を獲った『The woman who left』が今年劇場公開予定。

2.シン・ゴジラ(庵野秀明監督/日本)
あのゴジラが311〜原発事故のパロディになっていて、ぶったまげた。岡本喜八へのオマージュあったり、ゴジラがポケモンみたいに進化したり…。その重層性、批評性、徹底的な取材による作り込みにも驚かされた。岡本喜八も、大島渚もこれ観たら嫉妬するだろう。

3.彼方から(ロレンソ・ビガス監督/ベネズエラ)
父親の愛情を受けられずトラウマを抱えた歯科技工士の中年男と不良少年が売買春で出会い、不器用に付き合って行く様子をベネズエラ・カラカスの街の喧騒の中に描く。愛し愛されることの躊躇いや屈折した愛情表現が何ともリアル。また、被写体深度の浅い画像が独特で“窃視”の感覚がグロテスクに伝わってくる。ヴェネツィア金獅子賞も納得。レインボー・リール映画祭にて。

4.光の墓(アピチャッポン・ウィラーセタクン監督/タイ)

5.ミスター・ノー・プロブレム(梅峰メイ・フォン監督/中国)
民国時代の重慶で農場管理を任される男は、地主と労働者のどちらにもいい顔をするため、経営は火の車。そこへ高等遊民の青年、新たな管理主任が訪れ改革をしようとするが…。過去を描いているが、現在の中国を見事に風刺しているところに文学的力量を感じる。モノクロの映像も素晴しかった。東京国際映画祭審査員特別賞。

6.彷徨える河(シーロ・ゲーラ監督/コロンビア)
同時期に五十嵐大介の漫画『海獣の子供』を読んだせいもあって、メッセージが心に響いた。先住民含め人類がかつて持っていた自然や宇宙に対しての知識がどれくらい失われてしまったのか案ずる。

7.ティクン〜世界の修復(アヴィシャイ・シヴァン監督/イスラエル)
真面目なユダヤ超正統派の神学生の青年が、ある日昏睡状態となり、人が変わったように夜の街を徘徊する。超正統派の生活を揶揄するようなアイロニーに満ちた作品だが、性に目覚めた青年の青春モノとしてみると結構切ないものがある。こちらも全編モノクロ映像で、特に霧のシーンの描写が素晴しかった。フィルメックス・イスラエル映画特集にて。

8. よみがえりの樹(張撼依チャン・ハンイ監督/中国)
陜西省の山間部。父と息子が林で薪を拾っていると、亡き妻の魂が息子に乗り移る。かつて住んでいた家(窰洞)の敷地に立つ結婚記念の樹を移植したいと彼女は願う。家族と土地の記憶を巡る切ない怪異譚。アピチャポン映画に肉薄しそうな内容で、画も映画技法も凝っていた。

9. 12人姉妹(リー・ブン・イム監督/カンボジア 1968年作)
戦火で失われたと思われていた作品だが、アメリカでタイ語版が発見され日本で修復された。カラフルで奇想天外な貴種流離譚に心酔する。地割れとか空駆ける馬とか情感ある特殊撮影も見事。恵比寿映像祭にて。
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10. 大親父と、小親父と、その他の話(ファン・ダン・ジー監督/ベトナム)
写真学科の学生がクラブを経営する男とダンサーの女とつるんでいるが…。ほろ苦い青春モノかと思いきや、かなりアート志向で独特。ジェンダー、市場経済、人口制御のための精管切除など、社会の葛藤が94年のサイゴンを舞台に語られる。ベトナムのニュー・ウェイブもいい塩梅だ。大阪アジアン映画祭にて。


次点(入れ替え可能作品)
マンダレーへの道(ミディ・ジー監督/ミャンマー)
見習い(ブー・ジュンフェン監督/シンガポール)
裸足の季節(ドゥニズ・ガムゼ・エルグヴァン監督/トルコ)
暗殺(チェ・ドンフン/韓国)
師父(徐浩峰シュウ・ハイホン監督/中国)
最愛の子(ピーター・チャン監督/香港・中国)
山河ノスタルジー(賈樟柯ジャ・ジャンクー監督/中国)
ラサへの歩き方(張楊監督/中国・チベット)
ディーパンの闘い(ジャック・オーディアール監督/フランス・スリランカ)
ふきげんな過去(前田司郎監督/日本)
ヤクザと憲法(土方宏司監督/日本)
キャロル(トッド・ヘインズ監督/アメリカ)

去年は大阪アジアン映画祭、オリヴェイラ監督追悼特集、キアロスタミ監督追悼特集、東京国際映画祭、フィルメックスなどに通ったが、けっこうな数の邦画・ハリウッド系の話題作を観そびれてしまった。それでも日本映画が息を吹き返し、何か地殻変動が起きていることは伝わってくる。また、拙ベスト10のうちの4本がモノクロ映画で、その味わい深さも再認識した年だった。次点を12本も書いてしまったが、どれも入れ替え可能で、本当に甲乙つけがたい作品ばかり。(というか、こちらが表向きベスト10と言うべきか?)劇場公開されない(される予定がない)映画にも素晴しい映画があり、その存在を知らしむべく、いつものポリシーで書かせていただいた。


初出「旅シネ」


2015年度映画ベストテン
2017年度映画ベストテン



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