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光りの墓 [タイ]


光りの墓 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
  • メディア: DVD



光りの墓/世紀の光 Blu-ray

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タイ東北部イサーンにある町コーンケン。かつて学校だった病院に原因不明の“眠り病を患っている兵士たちがベッドに横たわっている。ボランティアとして病院を訪れたジェンは、面会者のいない青年イットの世話をし始める。そこで特殊能力を持つケンという女性に出会う。彼女は”眠り病“の男たちの魂と交信ができるのだった。ついにジェンの献身的な世話によって、イットは目を覚ます。
 
                 *
本作も今までの作品同様、イサーン、とりわけコーンケンの歴史・記憶を掘り起こす。おそらくテーマとしては「眠り」と「目覚め」の映画である。原因不明の“眠り病”にかかった兵士たちが横たわる病院は、かつて学校だった。さらにその古層では、その地を支配していた国王の墓があった場所であることが示唆される。主人公ジェンがコーンケン湖のお堂に、お供えものをするシーンがあるが、そのお堂に祀られている王女姉妹が実体化して出て来て、「お供えありがとう」なんていいつつロンコンを一緒に食べたりする。それが何ともユーモラスだ。

ジェンが世話をする兵士イットは、病院が設置した治療設備(アフガニスタンの米国兵士にも導入されたという)のせいか、ジェンの献身によるものかわからないが、時折、目を覚ますようになる。(彼はイサーンとは逆の南部出身で訛がある。)ある日、一緒に映画を観に行く。上映前に起立をして国歌を聞く。(流れるはずの国歌はカットされている。これは明らかに意図的なもの)映画を観てるとまた眠ってしまい、ケンと担ぎ出さなくてはならない。ケンは人の前世や魂と交信できる能力をもっており、眠っているイットの魂を憑依させ、ジェンにかつてあった王宮内を案内したりする。「もう目を覚ましたいの」とジェンはいうと、イット(ケン)は「じゃあ目を大きく開いて」という。

何層にもレイヤードされた世界に幻惑する。目が覚めていても、現実に見えるものとそうでないものがある。眠ることは現実をみないこと・沈黙でもあり、見えなかったものが認知できる領域でもある。フロイトのいうように、意識と無意識で人間はバランスをとっているともいえる。そして、アピチャッポンの映画では巧妙に隠されているようで、大きく露出しているものがある。『世紀の光』で登場した近代的な病院は軍の施設だった。そして国王の銅像が出て来た。『ブンミおじさんの森』では、軍当局によって赤狩りが行われ、虐殺があったことが示唆されていた。この映画では冒頭、軍関係者と思われるトラックが入って来て、重機がおろされ、土地が掘り返されるところから始まる。映画館では国歌が流れずカットされている。そして眠り病にかかった兵士である。彼らは何かトラウマを抱えながら沈黙し、自己防衛しているのかもしれない。確か、祀られていた王女姉妹が言っていたと思うが、「王様は兵士の生気を吸って今も戦いを続けている」という意味深なセリフもあった。

「この映画はタイで上映しない」「今後イサーンはじめ、タイ国内で映画をとる事はしない」と監督は言っているそうである。それはちょっと違うだろうと言いたい。だが、監督にそんなことを言わせてしまうほど14年のクーデター後の軍事政権成立からタイの政治状況は相当に深刻なものとなっているのだろう。(★★★★)

初出「旅シネ」より


2015年/タイ+イギリス+フランス+ドイツ+マレーシア
制作・監督・脚本:アピッチャポン・ウィーラセタクン
出演:ジェーンジラー・ポンパット・ウイドナー、パンロップ・ロームノーイ 、ジャリンパッタラー・ルアンラム
配給:ムヴィオラ
上映時間:122分
公開:3月26日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
公式サイト: http://www.moviola.jp/api2016/

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