第11回大阪アジアン映画祭 [アジア総合]
第11回大阪アジアン映画祭 3/4 ~13
昨年に続き大阪アジアン映画祭に行って来た。
今回は昨年とは違い、京都へ足をのばそうとか、あの古本屋へ行こうとかというそわそわした旅心も落ち着き、だいぶ会場の雰囲気に慣れたので映画に没頭することができた。(と思う)
公開の見込みある配給がついてるものはバッサリ切って(日程的にも無理だし)東南アジア作品を中心に見ることにした。お目当てはベトナムのニュー・ウェイヴとタイのナワポン監督作、エリック・クー監督作など。頑張ったらもう2〜3本多く観られたのだけど、結果的には集中力が途切れない10本くらいがちょうど良かった気もする。
どれも充実してたけど、観た10本中の個人的ベスト5は
1 大親父と、小親父と、その他の話
2 師父
3 そんな風に私を見ないで
4 フリーランス/ あの店長
5 3688
以下ツイッターメモ。
【2016年03月09日(水)】
●『大親父と、小親父と、その他の話』ファン・ダン・ジー監督(ベトナム)☆
写真学科の学生ヴーはクラブを経営するタンとダンサーのヴァンとつるんでいるが…。ほろ苦い青春モノかと思いきや、かなりアート志向で独特。すごく刺激的だった。ジェンダー、市場経済、人口制御の精管切除など、社会の葛藤が94年のサイゴンを舞台に語られる。
●『フリーランス』ナワポン・タムロンラタナリット監督(タイ)☆
グラフィックデザイナーのユンは、過労で身体に発疹ができ病院へ。診察してもらった研修女医に心奪われる。フリーランスの強迫観念を上手く描いていて笑いと共感。繊細な描写は『36のシーン』にも通じるところがある。主役の人、ロビー・ウィリアムズにちと似ていて芸達者。
【2016年03月10日(木)】
●『3 TIGA』アンギ・ウンバラ監督(インドネシア)
2034年ジャカルタ。平和革命後、警察は実弾使用を禁止されていたが、ある捜査で死者が。警察官のアリフが疑われ、記者のラム、伝導師のミム、かつて同じ武術を学んだ三人が陰謀に巻きこまれていく。政治利用される原理主義・自警団など、現代インドネシアを照射する凝った脚本。
これ配給付いてた。最近、アジアの監督たちがどんな未来を思い描いてるのかに興味が沸く。
●『そんな風に私を見ないで』ウィゼマ・ポルヒュ監督(モンゴル・ドイツ)☆
自由奔放なヘディ(モンゴル系女性)はシングルマザーのイヴァと愛し合うようになる。イヴァは父親との関係に悩んでいたが、ヘディは意外な振る舞いをする。保守的なモンゴルの実家のシーンが並列され、理想と現実の間で揺れ動く彼女の承認欲求が喚起される。最初『テオレマ』のような展開かと思ったらそうではなかった。また、性的関係と手持ちカメラが婁燁作品を彷彿とさせる。ジムのエアロビクスのシーンで『ラ・ブーム2』の主題歌使われてた。
●『師父』徐浩峰監督(中国)☆
1933年民国時代、南派詠春拳の継承者の陳(廖凡)は天津武術の泰斗・鄭山傲(金士傑)と出会い、道場開館について助言されるが、第八家武館の鄒館長と軍人の希文の介入で追いつめられる。杜+家衛みたいな独特のノリと美意識にシビれまくる。陳の恋人が駆ける姿はマキノ映画のよう。
●『汝の父を敬え』エリック・マッティ監督(フィリピン)
義父の誘いで投資詐欺に合い全財産を失ったエドガー。投資を促した友人やヨシュア教会の仲間にも恨まれ、妻を人質に期限内に600万ペソを払うよう要求される。故郷の鉱山労働者の兄弟と策を練るのだが…。主人公の変貌、ある場所への接続に映画的カタルシス。神の不在が描かれる。
【2016年03月11日(金)】
●『3688』ロイストン・タン監督(シンガポール)
「麗的呼声」(有線放送)の営業職だった高齢の父親と、歌手を夢見ながら駐禁切符の仕事をする娘・飛翔38才。ある日、娘に歌手になれるチャンスが到来するが、認知症の父親が行方不明に…。実在の歌手・凰飛飛に捧げられた、笑いと涙の歌謡映画の秀作。劉玲玲(≒田中眞紀子)の貫禄。
●『あの店長』ナワポン・タムロンラタナリット監督(タイ)
97年からバンコクのWEマーケット(チャトゥチャック)18区でタイ国内では観られない映画の海賊版ソフトを売っていたヴァンVDOの店長についてのドキュ。彼がタイ映画界に与えた影響をインタビューで探る。ペンエーグ、コンデート、評論家コン・リッディなど敬愛のコメントが。
通貨危機後、リストラにあった店主がこの商売で開店、03年最盛期、09年に閉店。ヌーベルバーグが観られなかったとか、第三世界(字幕ママ)の映画環境への視点が興味深い。 House RCAのオーナーが『アデル、ブルーは熱い色』も赤字だったという話もあり、タイでアート系を観る環境を維持するのはなお厳しそう。
●『部屋の中で』エリック・クー監督(シンガポール)
老舗ホテルの27号室での密室の出来事をシンガポール50年の歴史と重ねる。日本占領下の英人と華人の白黒パートから始まり、娼婦、60’s、タイ、韓国、日本人駐在妻の不倫、インドネシア人のホテルスタッフ(女性)、未来まで。鬼(霊)が出てくるのは定石でエロスに振れるのも理解できるけど、演出が監督らしくなかった。
献辞のあったダミアン・シンは『ミー・ポック・マン』の原作者で最近オーバードーズで死亡。(ミュージシャンでもあった彼を60'sの架空のバンドメンバーに仕立て、この映画の傍観者として登場させている。)ベンジャミン・シアーズ大統領(’70-81)はペニスを人工のヴァギナにする技術を生み出した医師でもあった。反政府活動で逮捕され事実上32年間拘留されていた謝太宝など。興味深いトリビアも。
●『草原に黄色い花を見つける』ビクトル・ブー監督(ベトナム)
89年、ダナン南のフーイエン省。思春期の兄ティエウと本好きで優しい弟トゥオン。兄は同級のムーンに恋心を抱くが、ムーンは家の問題を抱え、兄弟の家で世話になることに。彼女と仲良くする弟に嫉妬して兄は弟に怪我を負わせ、寝たきりに。それでも弟は兄を庇う。
張芸謀やキアロスタミなら、兄の過ちの傷口を広げていくのだろうが、バイクサーカスの父娘のエピソードで焦点ボケてしまった感。でも、このあっさり感・おとぎ話風が今的な感じもする。実際、悲しい結末にならずにホっと胸をなで下ろした。小さいおじさん=カエル。子役達の演技と風景が良い。
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2016-03-23 04:10
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