消えた画 [カンボジア]
『消えた画』はリティ・パニュ監督の集大成的な作品だと言えるかもしれない。
というのは、監督がストレートに自らの心象を言葉にし、自らの体験を作品にしたのは意外にもこれが初めてだからだ。クメール・ルージュ支配下で親・兄弟を失って行く様子が、哀切とユーモアをもったモノローグと「土人形」を使って語られる。「土人形」は素朴で愛嬌があり、時に気高く、不気味にも映る。監督が以前住んでいた家の間取りを再現しようとしたときに浮かんだアイデアらしいが、虐殺された人々が眠る血の染み込んだ大地から作られた人形は、彼らの声を代弁する。
合間に挟まれるのは、クメール・ルージュ時代 のプロパガンダフィルム。カンボジアには映画を含め、過去の映像がほとんど残っていない。監督は「Bophana(ボパナ)視聴覚センター」という施設を作り、映像(=記憶)を集める活動もしている。リティ監督の映画を観ていつも思うの は、記憶とはやっかいなものであると同時に、かけがえのないものだということだ。内戦・ポト時代に、およそ180万人が亡くなっているそうだが、生き残ったもの、死んでいったもの一人一人に、語られない物語がある。
(初出「旅シネ」より抜粋)
消去: 虐殺を逃れた映画作家が語るクメール・ルージュの記憶と真実
- 作者: リティ パニュ
- 出版社/メーカー: 現代企画室
- 発売日: 2014/06/30
- メディア: 単行本
2014-08-07 01:02
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