石川文洋を旅する [日本]
『石川文洋を旅する』
写真家・石川文洋は1938 年沖縄に生まれた。世界一周無銭旅行を夢みて日本を脱出。64年から南ベトナム政府軍・米軍に従軍し、戦場カメラマンとしてベトナム戦争を世界に伝えた。 そして68年末に帰国してから今日にいたるまで、出自の沖縄の姿を記録し続けている。ベトナム戦争従軍取材から50年、75歳になった石川は再び沖縄・ベ トナムを旅し、その半生を振り返る。
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石川文洋といえば、ベトナム戦争の写真でその名はよく知っていたが、同じく従軍した開高健ほどはその人生を知らなかった。だから、氏が沖縄という出自を背 負っていることを知って、自然と体が前のめりになった。というのも、日本とアジアの結節点としての「沖縄」というテーマは、アジア映画を観る上で避けて通 れない課題だと思っているからだ。
映画評論家になりたかったという石川が紆余曲折を経て、戦場カメラマンになっていく様子はまさに旅そのものだ。そして、ベトナムの戦場で同じ沖縄出身のア メリカ兵に出会ったことは、用意された運命だったのかもしれない。貧しい沖縄からアメリカの市民権を得るために米軍に志願したドオイケ一等兵との邂逅と別 れは、その後の石川の活動の核心になっているように見える。
劇中、織り込まれる現在のベトナムの美しい街並や、沖縄のおだやかな海は、旅先で眺める風景そのもので、ここでかつて激しい戦闘が繰り広げられたようには 思えない。一方で、カメラは、枯れ葉剤の影響を受けた子供たちの施設や、対馬丸沈没の生存者の言葉も拾い、ベトナム戦争で活躍したCH-46ヘリに代わり オスプレイを配備する沖縄の米軍基地に目を向ける。「もはや、戦後ではない」と人は言うのかもしれないが、実際は未だに後遺症がベトナムにも沖縄にも残っ ている。石川がホーチミンで間借りしていた部屋の大家との再会は、生きながらえた者の喜びと、喪失感が入り交じった象徴的なシーンだった。
戦場カメラマンといえば、もっと豪快な人物像を想像していたが、老境に達しているせいか、きわめて柔和な顔立ちで静かに語りかける人物だった。戦争と平和 を洞察した静かな言葉は、時に東アジアの政治状況を思うと理想主義に聞えるが、彼が撮った数々のモノクロ写真のように臓腑に沁み入ってくる。些細なことだ けど、ラストの過剰な音楽や、氏を聖人君子みたいに讃えるようなカットが気になった。過剰すぎる演出はむしろ素材を損ねてしまうのではないだろうか。(★★★)
『石川文洋を旅する』
2014年/日本
企画・監督:大宮浩一
配給:東風
上映時間:109分
公開:6月21日(土)より、東京・ポレポレ東中野、沖縄・桜坂劇場ほか全国順次公開
公式サイト:http://tabi-bunyo.com/
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