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収容病棟 [中国]


収容病棟 [DVD]

収容病棟 [DVD]

  • 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
  • メディア: DVD




『収容病棟』王兵監督(中国)

この作品を観て、即座に思い出すのは、フレデリック・ワイズマンの代表作『チチカット・フォーリーズ』(‘67)だ。マサチューセッツ州にある精神異常犯罪 者のための矯正院をありのまま捉えた作品は、ダイレクトシネマといわれるドキュメンタリー手法の金字塔的な作品で、当然、王兵監督や『精神』(’08)の 想田和弘監督への影響は測りしれない。人間扱いされない患者たち、ロボトミー矯正法など、グロテスクな内容の一方で、モノクロ映像の美しさが際立つ作品だ。人権問題に觝触する内容からなのか、米国では90年代まで公開が禁止されていた代物でもある。

王兵監督の『収容病棟』はそれを更新するような傑作である。舞台は雲南省のとある精神病棟。柵で覆われている吹き抜けの回廊型の病棟は、どこかSF的で独特の雰囲気を醸している。人によってはその劣悪な環境に驚くのかもしれないが、中国の辺境地帯を旅したことのある人は、標準的かそれ以上の安宿レベルだと思っていい。カメラは存在感を殺し、空気のような存在になって患者たちに寄り添う。叫ぶ男、裸で立ち尽くす男、小便を垂れる男、ベッドの中でじゃれ合う男たち ・・・。高名な演出家によって役付けされたかのように回廊を歩き回り配置される患者たち。その立ち振る舞いは、前衛演劇を観るかのようだ。

面会に来た家族との会話から伺われる彼らの真相。どうやら彼らは精神的に病んでいる者ばかりではなく、コミュニティの中でうまくやって行けない者や、当局 と政治的なトラブルを起こした人物なども含まれているようだ。
ここで思い出すのは応亮監督の中編『私には言いたい事がある』(’12)という作品だ。「楊佳事件」という実際にあった警官殺害事件の実録ドラマの中で、息子の冤罪を訴えた母親が公安組織下の精神病院に軟禁され、退院したところが描かれる。自宅に 戻った彼女は不在だった数の日めくりカレンダーをビリビリと破いていくのだった...。このように厄介な人物を精神病院に幽閉する手段は、中国では常套な のだろう。

また、カメラは閉塞感ある病棟から外へ出て、退院した一人の男の姿を追う。自由の身のはずが、貧困と殺伐とした社会の中で居場所がない。病棟がむしろ居心 地のいい天国に見えて来るというパラドックスが浮かび上がってくる。前編・後編と合わせて4時間弱の長尺ではあるが、まったく飽きさせないドキュメンタリーだ。
(★★★★)

初出「旅シネ」


『収容病棟』
2013年/香港・フランス・日本
監督・脚本:ワン・ビン(王兵):
配給・制作:ムヴィオラ
上映時間:273分(前編122分・後編115分)
公開:6月28日(土)より、シアター・イメージフォーラム他全国順次公開
公式サイト:http://www.moviola.jp/shuuyou/
 
第35回ナント三大陸映画祭「銀の気球賞」


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