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2011年度映画ベストテン [映画ベストテン]

「旅シネ」に寄稿した2011年度の映画ベストテンです。


1 『卵』『ミルク』『蜂蜜』(セミフ・カプランオール監督/トルコ)
オプー三部作ならぬ、ユスフ三部作。古本屋を営みながら暮らす詩人ユスフの壮年期・青年期・少年期の3つの時期を、時代背景を変えず、現代の風景のまま詩 的に描く。人々の所作や、統制の利いた画、情感溢れる風景が素晴らしい。音楽はない。主人公は癲癇持ちで何度か失神する。かの預言者も癲癇持ち故に天啓を 受けていたという話を思い出す。ユスフの物語を通して神の存在を描いているような、文字通り神秘的な作品。

2 フィツカラルド(ヴェルナー・ヘルツォーク監督/ドイツ)
「ヘルツォーク傑作選」より。映画ファンなら周知の1982年の傑作ですが、この時期だからこそ、あえて取り上げたい。震災後、落ち込んだ気持ちを奮い立たせてくれるような映画体験だった。

3 オールド・ドッグ(ペマツェテン監督/チベット)
チベタン・マスチフの老犬を売ろうとする不妊の息子、それを阻止する老人。チベタン犬は中国セレブのステイタス・シンボルになっており、高級車並みの値段がつく。市場経済と開発の進むチベットを舞台に民族存続の危機を訴える見事な秀作。フィルメックス・最高賞。

4 昼間から呑む(ノ・ヨンソク監督/韓国)
失恋を機に 江原道・チョンソンを旅する青年のトホホなロードムービー。「歩き方」のトラブル集に載ってそうな出来事が満載で、バックパッカーはきっと大爆笑のはず。

5 新世界の夜明け(リム・カーワイ監督/日本・中国・マレーシア)
北京の女の子(何不自由なく育った80后世代)が恋人とうまくいかず、一人でクリスマスを大阪で過ごすことに。しかし、紹介された宿は大阪・新世界にある 木賃宿をリノベしたゲストハウスだった。軽妙な笑い、無国籍アクションの芳香も放ちながら、日中の典型イメージを逆転させる巧みな物語。在日中国人たちを通して多面的な中国を語る。マレーシア出身で日中の留学経験を持つリム監督のユニークな立ち位置と批評精神に今後も注目。『それから』『マジック・ロス』 も公開された。

6 花嫁(章明監督/中国)
「中国インディペンデント映画祭」から、ベテラン監督による軽妙洒脱な一本。ある事件で妻を亡くした中年男。友人たちは彼に嫁を見つけてやろうと腐心する が、その裏には黒い企てがあった。配役が面白く、伝奇物語も彷彿とさせる。同監督の『消えゆく恋の歌』も佳作だった。

7 浄化槽の貴婦人(マーロン・N・リベラ監督/フィリピン)
児童買春についての映画を撮ろうとしている若い映画クルー。母親役を誰にしようか迷い、ある有名な喜劇女優に頼みに行く。フィリピン・インディペンデント 映画の隆盛を物語る、東京国際映画祭での「フィリピン最前線~シネマラヤの熱い風」も好企画だった。J・ジェトゥリアン監督『クリスマス・イブ』を挙げる べきなのかもしれないが、フィリピン社会、映画界を痛烈に皮肉りながら笑い飛ばしてしまう逞しさに共感したい気分なので、こちらを挙げることに。

8 冷たい熱帯魚(園子温監督/日本)
でんでんの怪演。暴力的な場の雰囲気に呑まれ、犯罪に手を染めていく姿は、ブリランテ・メンドーサ監督の『キナタイ』でも観られた。「オレはこうやって今 まで生きて来たんだ!」田村(でんでん)の言動に、今後ますます過酷になるだろう生存競争を慮って五蔵六賦に力が入る。切り刻まれないように。

9 南京!南京!(陸川監督/中国)
南京事件を扱っているせいか一般公開されず、中野ZEROホールで一日上映されたのみ。冒頭、南京城の城門から日本軍が攻め入ろうとするシーンで始まり、 一人の日本人兵士の視点で物語が進む。これにはびっくり。モノクロ映像と抑えた演出。不毛な論争より、歩み寄る姿勢に共感。

10 波乱万丈(パク・チャヌク&パク・チャンギョン監督/韓国)
iPhoneのカメラで撮ったとは思えない33分の短編。画に独特の風味がある。男が釣りをしていると、女性の死体をつり上げる。その死体は別のチャンネルに通じていて・・・。巫堂(ムーダン)の世界観がよく分かる。

次点. 3.11 A sense of home films project
河瀬直美監督 (『朱花の月』『光男の栗』も良かった) の呼びかけで、ビクトル・エリセ、アピチャッポンほか、錚々たる世界の作家が参加。被災地に捧げられた短編集。中でも賈樟柯の一編が、映画に対する誠実さが感じられて心動かされた。

そのほか印象に残ったもの。(今の気分ということで)
『サウダーヂ』(富田克也監督/日本)
『ゴーストライター』(ロマン・ポランスキー/イギリス)
『フライング・フィッシュ』(サンジーワ・プシュパクマーラ監督/スリランカ)
『ヘッドショット』(ペンエーク・ラッタナルアン監督/タイ)
『ドリーム・ホーム』(パン・ホーチョン監督/香港)
『僕は11歳』(王小師/中国)
『歓楽のポエム』(趙大勇監督/中国)
『中国娘』(郭小櫓監督/中国)
『あの頃君を追いかけた』(九把刀監督/台湾)


3月11日後、ショックのあまり2ヶ月ほど都心へ出ることが出来なかった。6月「ヘルツォーク傑作選」で多いに刺激を受け、ようやく復活。それでも新作を観たいとは思わず、どちらかというと古い日本映画を好んで観ていた。後半は条件反射的に「アジアクイア映画祭」「三大映画祭週間」「東京国際映画祭」「フィルメックス」「中国インディペンデント映画祭」に通った。何だかんだで映画によって気を紛らわせていたし、救われていた気もするが、この一年で観たいと思 う映画の嗜好が随分変わって来たように思う。カラッとした喜劇、エンターテイメントが観たい今日この頃。

 
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