ダヤニータ・シン [インド・南アジア]
『ダヤニータ・シン展 ある写真家の冒険』@資生堂ギャラリー(銀座)
インドの女流写真家ダヤニータ・シンの日本初個展を観て来た。
彼女の処女写真集は、あのタブラ奏者を撮った『ザキール・フセイン』('86)だという。そして日本版も出ている『インド 第三の性を生きる―素顔のモナ・アハメド』('01)という作品集は、モナという名前のヒジュラ(ユーニック)の生活を13年間追ったもの。この経歴だけでも強烈な印象をもってしまうのだけど、今回の展示は確固たる被写体はない。もしあるとすれば、写真の背後にいる作家自身、ということになりそうだ。旅、彷徨、記憶の断片、そんなキーワードが浮かんで来る作品が並べてあった。
ギャラリー入ってすぐの踊り場に、蛇腹になった小さな紙にプリントされた写真本が展示されてある。『SENT A LETTER』と題したこのシリーズはインド国内を旅した時の記録で、一緒に旅した人や、その間に思いを馳せた人にプレゼントすることを想定した作品。アラハバード、コルカタ、パドマーバプラム、ムンバイ、デヴィガー、バラナシなどの土地で撮られていて、一冊は母親を撮ったもの。エキゾチズムを狙った訳ではないインドらしい風景がみられる。
ホールに入ると、『愛の家』『ある写真家の冒険』というセクションになっていたらしいが、風景写真が過去のシリーズ作と混然となって並んでいる。こちらは、にわかにはインドで撮ったものとはわからない写真が並ぶ。
最近出版された『愛の家』('11)という写真集は、写真とフィクションの境界を曖昧にするべく作られた本だそうで、今回の展示のコンセプトと重なる部分がありそう。物語性を喚起するような写真が並んでいる。
中でも、夜の風景を撮った作品が印象的だった。暖かい家庭の明かりが漏れて来る集合住宅、郷愁あふれる街の灯。一方、『ドリーム・ヴィラ』シリーズの写真は、たぶん南インドあたりの夜を撮ったのではないかと想像するのだけど、魑魅魍魎感、サイケデリック感が漂っていて、何となくゴアの夜を思い出した。上のフライヤーの写真、ヘルツォークの『フィツカラルド』のワンシーンのようにも見えてしまう。
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