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楊福東 [中国]


 『first spring/一年之際』film by Yang Fudon(2009)


私には全く縁のないブランドですが、上は「プラダ」のメンズ・ウェアのために製作された楊福東(ヤン・フードン)のショートフィルムです。ストーリーは正直よくわからないのですが、二人の西洋人の男が、30年代モダン風の上海に降り立ち、二人の東洋人女性に出会うエピソードと、東洋系の男女のカップルが、やはり上海を訪れ、様々な時代の服を着た高貴な人々と会食するという2つのエピソードから成り立っているように思われます。

よく見ると、この映像には”陰陽”の記号が散りばめられていることに気づきます。冒頭の方で、黒と白の馬がシンメトリーに配置されたり、白と黒のトランクを持っていたり。中盤ではやはりピンクレディーのウォンテッドの衣装みたいな服を着た二人の女が榻状の長椅子に座っていたりします。ラストでは、男は白いトランクを持ちながら天空に舞い、二人の女が黒いトランクを持ち地を歩いて行きます。陰と陽=女と男=黒と白=地と天。また,登場の仕方も、男男、男女、女女(=太陽、陰陽,太陰)の組み合わせで登場しています。果たしてこの記号がどういうコードを形成して意味をなすのかは、五行や八卦にでも精通していないと、読み解けそうにありません。

ふわりと天空に舞った男たちが、プラダの服を着て電線?を歩きフレームの外に向かってくる様は、「服、買え」とインターネットの世界から飛び出してきているように見えます。考えてみれば、陰陽思想は、0と1で表すデジタル世界と似ている気がします。

yangfudong.JPG


書くのが遅くなってしまいましたが、先月初め、花冷え凄まじい日に、『楊福東(ヤン フードン)将軍的微笑』(5月23日まで!@原美術館)に行ってきました。
メインの『将軍的微笑』は、将軍と呼ばれる人物の誕生パーティーの様子を描いたらしいインスタレーションですが、いくつの映像に分節されていています。一つは大きなテーブル自体がスクリーンになっていて、「人々が食事するたテーブル上を俯瞰で撮った映像」が流されている。天井からはモニターが吊られていて、モダンな服を着た男女が,享楽というか退廃的な雰囲気で戯れる映像が流れている。(この映像がイイです)また壁には将軍と思しき老人がピアノを弾いていたり、独白する映像。もう一つは、若い女性たちに囲まれて歩く将軍の映像。これは素直に毛沢東を思い出さます。

老将軍の姿は、人間の栄枯盛衰を思わせるし、社会主義の衰退を思わせもする。そのテーブルと吊られたモニターの映像は、欲望の支配する市場経済の象徴だろうか。去年の話題になりますが、毛沢東の孫が文字通り軍の「将軍」になった、というニュースがありました。その辺りのことを鑑みると、吊られた映像の若い男女は、将軍の子や孫にも見えるし、政府高官たちは代々こういう贅沢をしているのだ、という風にも見えます。

『竹林の七賢人Part3』は、世俗を避け竹林で清談する賢人たちの故事を模したシリーズの3作目で、「Follow me」で前の作品をざっと観た事があるのですが、若い男女七人が繰り広げる無声の映像です。Part3は、彼らが山奥の農村へ行き、共同生活をしながら田を耕すもので、これはまるで文革時代の下放を描いてるようにみえる。(実録・連合赤軍っていう雰囲気も)冒頭にショッキングな牛の屠殺シーンがあったり、紙の牛を燃やす弔いのようなシーンがあったり。これも意味深です。無表情の役者たちはどこかマネキンのようで、そのファッションはどこか偽装(コスプレ)めいて見える。ファッション=モードが曖昧で、現代の農村を描いているようにも見えるし、過去を描いているようにも見える。

その他、『半馬索』(2005年)はどこか近未来的な世界観の中、縛られていた男たちが逃亡して旅するような映像。(馬索とは,馬をつなげておく柱のことらしい)『バックヤード ほら、陽が昇るよ!』(2001年・フィルム上映)は現代の上海を舞台に人民服を着た男たちが権力争いっごっこをするようなモノクロ映像。

一連の作品を見ていると、思考はおのずと過去と現在を行き来するように、常に反芻を強いられる感じがする。ノスタルジーという言葉も当てはまりそうですが、映像の記号からは、明確なコードを見いだせぬまま、浮遊してしまう。特に最近のスタイリッシュな映像作品に現れるモードの下に隠された肉体、時に現れる裸体は、移ろい行くモードの中で、「我々(中国人)とは何者か」を問いかけているように見える。ロラン・バルトの『モードの体系』を引き合いに出すまでもないですが。

「アバンギャルド・チャイナ」で『断橋無雪』観たときにも書きましたが、この人の長編映画を観てみたいと、改めて思いました。『竹林の七賢人』シリーズ、一挙上映でもいいのですが。

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IMG_0240.JPG

渡辺 仁の設計した原美術館を出て,左に下っていくと、見えてくるのはミャンマー大使館。(ヴィザはここで取ります)しかしこの国に春が訪れるのはいつだろう?
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