SSブログ

コタンの口笛 [日本]

kotan.jpg


神保町シアターで開催中の『没後四十年 成瀬巳喜男の世界』のプログラムにあった『コタンの口笛』(1959)を観た。

最近『日本語が亡びるとき』なんて本が売れたみたいですが、アイヌ語は「日本国内で」まさに亡びつつある言語である。ウィキによれば、1996年の推定で、アイヌ約15,000人のうち、アイヌ語を流暢に話せる人(Active speakers)は15人しかいなかったらしい。以前、アイヌ文化研究者で参議院議員でもあった故・萱野茂が、既に彼が子供の時分にアイヌ語を話す人は少なかった、と言っているのをTVで見た事がある。

映画は50年代のアイヌ集落の様子を描いている。

 
                    *
    
北海道のアイヌ集落で暮らす父親(森雅之)と姉弟。父親イヨンは、人生に失望し飲んだくれている。(米軍キャンプに勤めていたが、米軍の撤退とともに失職したという設定らしい)中学3年の姉・マサは、家事をこなす。最近死んだ母親に似て来たといわれている。クラスの同級生に財布を盗んだのではないかと疑われ、悲しみ落ち込む。そんなとき,担任の美術教師・谷口先生(宝田明)から、彼女を絵画のモデルにしたいと誘われ、承諾する。その絵が入選し、谷口先生は教師を辞め東京に行ってしまう。

中学一年の弟・ユタカ(久保賢。山内賢の子役時代)もイジメに合う。「ア、犬(イヌ)だ!」とか「劣等」だとか言われ、からかわれる。負けず嫌いの弟は、イジメの中心人物に、同じ血が流れているのか確かめよう、とナイフで血を流すことを迫る。また、ある時は、「観光の売りモノなり」という貼り紙を背中に貼られ、ついに激怒した弟は、決闘を申し込む。しかし、待ち合わせた校庭で、だまし討ちにあい、弟は後ろからバッドで打たれてしまい気絶する。

kotan2.jpg

一家の隣には、祖母のイカンテ婆さん(三好栄子)と年頃の孫娘フエ(水野久美)が暮らしている。フエは、和人の田沢校長先生(志村喬)の息子と仲がいい。ある日、イカンテ婆さんは、田沢先生の所に行き、孫娘を嫁にしてほしいと頼むが、いい返事をしない。田沢先生は、アイヌを差別するようなことはしないと信じていたイカンテ婆さんだったが、裏切られたとショックを受ける。老婆は、娘の失踪を機に、弱り果て死んでしまう。

ユタカの体が回復した頃、父親は態度を入れ替える決心をする。(このとき、熊が出てくるアイヌの昔話のような話をしたのだが、よく覚えていない。和人批判の暗喩が含まれていた)生活に困窮する中、二人のアルバイトが決まり、父親もきこりとして再就職する。いい予感とともに、不安感も醸し出すところが、巨匠・成瀬のうまさである。父親は、大木の下敷きになって死んでしまう。小高い丘の上に、アイヌ独特の墓標を立て、父親を埋葬する。実は,姉弟が住んでいた家は、父親の弟によって建てられたもので、借金返済のために売却されてしまうことになり、姉弟は町に奉公に出されてしまうのだった。

成瀬作品は女性映画という印象が強いが、児童映画にも秀作は多く、『秋立ちぬ』『銀座化粧』などは何度も見たい作品だ。児童を扱っていても、その背後にいる母親を思い起こさせるので、やっぱり女性映画なのかもしれないが。『コタンの口笛』も児童映画の範疇だが、成瀬作品の中では珍しく映画から怒りを感じる社会派作品だった。原作・石森 延男、脚本・橋本忍、音楽は伊福部昭。

それからこの映画が制作された50年代後半にはアイヌ表象の日本映画が立て続けに公開されている。これは何故だろう?
『森と湖のまつり』(1958)東映
『コタンの口笛』(1959)東宝
『大草原の渡り鳥』(1960)日活
『水戸黄門海を渡る』(1961)大映


!-- amazon -->
コタンの口笛 第1部上―あらしの歌 (偕成社文庫 4017)

コタンの口笛 第1部上―あらしの歌 (偕成社文庫 4017)

  • 作者: 石森 延男
  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2000
  • メディア: -




nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

水の彼方北朝鮮映画週間 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。