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太平洋的風 [台湾]


『太平洋的風』胡德夫(2007)


「台湾シネマ・コレンクション2008」(@シネマート六本木8/23-9/26)で観た『練習曲』(2007年 チェン・ホァイエン監督)は、ある聾者の青年が自転車で台湾を一周する中で様々な土地と人に出会うロード・ムービーだ。自分が環台(台湾を一周)する時は『憂鬱な楽園』のようにだらしなく足を開いて原付バイクに跨がって行きたいと予々思っていたが、どうやら今はエコなのか自転車らしい。

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主人公の青年がなぜ聾者なのか。最近、たまたま手にとった『ろう文化』(青土社)なる本には、手話を言語の一つと考えることが記されており、なるほど、と合点がいった。冒頭に出て来るパントマイムも身体言語という言語の一つで、おそらくこの映画は台湾の言語的な差異を捉え、台湾という島を表象するという試みを持った映画なのだ。

前半部分で、歌手・阿妹の妹(アミ族)が出ていたり、サヨンの鐘のところではタイヤル族のおばちゃんが日本語の歌を歌ったり、そして映画のクライマックスと思われる夕景から夜の場面で、上の動画・胡德夫が歌う『太平洋的風』が流れる。胡德夫という人は、パイワン族の血統なのだそうだ。台湾というのは中国大陸からの移住者ばかりではないんですよ、太平洋の風に乗ってやって来た人もいるんです、映画の文脈からはそう歌っているように聞こえる。

原住民・少数民族の言語のほかに、17世紀福建から移住して来た人々によって形成される閔南語=台湾語、日本統治下の日本語、そして戦後国民党が流れて来て教育として広めた北京語=国語が支柱のようにあり、実はせめぎあっている。劇中では、カナダの留学帰りの学生が北京語と英語のちゃんぽんで話し、その母親は別な言語(台湾語か?)で話すシーンもあった。90年代に入って、教科書を地元で使われてる言語にしようという動きもあったようだ。台湾映画には「お前、台湾語も話せねえのか」というセリフがよく登場する。

大まかに区分すると、台湾語には台南方言、台北方言、台中方言(台中周辺)、彰化県の港町(鹿港)に典型的に見られる海口(ハイカウ)諸方言、北部(北東)沿岸方言(特に宜蘭県の宜蘭方言)などのバリエーションが存在する。制度化されていないこともあって、今のところ「標準的な台湾語」というものは存在しないが、強いて言えば、歴史的に古く、台湾語も日常的に優勢な台南方言が、事実上の標準の地位を占めつつある。また、台東で使われている方言は、音韻体系からいって白話字に最も近い。台北方言の一部は第八声が無いことと、一部の母音に交換が起こること(例えば「i」と「u」、「e」と「oe」)が特徴である。台中方言は「i」と「u」の中間の母音があり、これを「ö」で表記することがある。宜蘭方言は母音「ng」が'uiN'に変化することが特徴である。 (wikipediaより抜粋)



そのほか『台湾シネマ・コレンクション2008』の印象に残ったもの。
一番見応えがあったのは『ビバ!監督人生』(2007年)だった。監督・脚本・主演のニウ・チェンザーは、侯孝賢の『風檀の少年』の主演をやっていた人物で、中年になってもその忘れがたい顔つきは変わっていなかった。彼はTVで役者や演出家などをしていたらしい。あの少年が台湾芸能界をサバイヴしてきたというその歳月に感慨深いものを感じてしまう。映画は、自伝的要素も盛り込みつつ、アルトマンの内幕もの映画のような感じで、台湾映画界の内実を曝け出す。資金集めというのは本当に大変そうだ。プロデューサーがドウズの企画をスポンサーに売り込む際、興味を示さなかった相手に、「呉念真の脚本もありますよ」とか、ドウズの部下スタッフが、会社の先行きを悲観して「蔡監督のへ行こうかな」なんてギャグもあったり、ヤクザとの関わりも妙にリアルだ。また、行き詰まった監督は彼女の親友に手をだしてしまったりと、ホン・サンス映画のダメ男を彷佛とさせる。また、台湾の政治状況も皆間見えた。(『練習曲』(2007)が台湾正名運動を進めた陳水偏総統の台湾独立派色を帯びているのは間違いないが、その過渡期を描いてるのがこの映画で、その後、国民党が政権を奪取する。)


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『Tatto-刺青』(2007年)は同性愛、ネットアイドル、大地震、刺青、彼岸花・・・エピソードそれぞれはとても面白いのだけれど、全体として何が言いたいのか焦点がぼやけている感じがする。でも主演のレイニー・ヤン、イザベラ・リョンは可愛いので一見の価値があり。同じゼロ・チョウ監督では、L&G映画祭で観た『彷徨う花たち』(2008年)の方が、レズビアンの幼年期、老年期、青春期(こういう順番だった)が微妙にずれながらもリンクした3話構成で描かれ、最後同じ列車に乗っているというまとめ方がうまかった。(でも途中、映写機の事故があり、いい印象がない)



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