雲南colorfree [中国]
最近になってようやく『Tibet Tibet』というドキュメンタリー映画を観る事ができた。
この映画、確か2001年頃に初映され話題になっていた。監督が取材した同時期にチベットへ行った身として是非観ておきたかったのだが、機会を逃していていたのだ。噂では型破りな映画だと聞いていたけれど、かなり真っ当な骨のある映画だった。(2008年再編集とあったから、初映のものとは異なっているのかもしれない)
在日コリアン3世のキム・スンヨン監督は、旅に出る前までは日本名を名乗り、日本人と変わらぬ生活をし、そのうち日本に帰化しようとすら考えていた。しかし、長いアジアの旅の中で、ダライ・ラマという存在を知り、インドのダラムサラやチベット本土を旅し、自らの民族的アイデンティティを問い直すことになる。中盤までフラフラした旅の浮遊感があるのだが、後半は俄然ジャーナリスティックになっていく。チベット本土での隠し撮り映像に加え、中国共産軍のチベット侵攻の様子を撮った古いモノクロ映像、87年(?)のデモ弾圧の映像が盛り込まれており、さらにチベットから避難してきた僧侶たちの生々しいインタビューもあった。インドでのダライ・ラマ14世の生活を密着取材したパートも興味深い。亡命政府の強力なバックアップもあったと思われる。
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そのキム・スンヨン監督の2作目にあたるのが、雲南を舞台に少数民族の衣装に焦点を当てた映像ドキュメンタリー『雲南colorfree』。そのサウンドトラックはボアダムスのYOSHIMIが担当していて、ソニック・ユースのキム・ゴードンや、アラヤヴィジャナのシタール奏者ヨシダダイキチなんかがゲスト参加している豪華版。エクスペリメンタルでノイジーなエレクトロ音と、牧歌的なリズムやヴォーカルが融合して不思議な雰囲気を醸し出している。特に少数民族の声や楽器をサンプリングしているわけではなさそうだが、見事に映像とマッチしている。『Death valley ’69』サイコババ・バージョンは必聴。
正直いうと、映像の方は少数民族のファッション図鑑といった感じで個人的には物足りなかった。『TibetTibet』の監督というからには何か「仕掛け」を期待してしまう。カラフルな衣装や人々の佇まいを凝視するだけで十分ともいえるが、衣装が作られる行程も見てみたかった気もする。雲南省には24の少数民族がいるようだが、9つといわず、全てを網羅してもよかったのではないか。隣接するベトナムやタイ、ミャンマーなどの周辺諸国にまたがり越境する少数民族を追うのも面白いかもしれない。
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その少数民族のいる山岳地帯から見れば、遠い辺境の地・北京でオリンピックが開催されている。チャン・イーモウの開幕式の演出には正直驚かされた。特に『缶』という楽器を使ったカウントダウンはアナクロニズムでデジタル表現をしていて、「漢数字」で三、二、一、と表示されるのが格好良かった。ただ明るくなって、一糸乱れないそのパフォーマーたちの数の多さに異様さを感じてしまったのも事実。これは毛イズムだからというわけではなく、伝統的な中華スタイルなのかも知れない。村松伸の名著『中華中毒』(ちくま学芸文庫)によれば、中国人の空間意識には「無の空間に対する恐怖」があり、まず「箱」(城壁)を作り、その中をにぎやかな装飾で埋め尽くしたいという深層心理があるらしい。
中盤では、紙と文字(漢字)の歴史絵巻なんかもやっていたけど、漢字を視覚的に理解できる世界中の華人や東アジア地域の人々には多かれ少なかれ何らかのメッセージを、心理的な影響を受けたのではないだろうか。銅鑼が一打ちされたような感じがした。
2008-08-21 01:11
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