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ナレスワン王 [タイ]

KingNaresuan.jpeg

【右目】

遅ればせながら、六本木で開催中の「タイ式シネマ・パラダイス」(11日・金曜日まで)のプログラムの中から未見だったものをいくつか見て来た。その中でも『キング・ナレスワン序章〜アユタヤの若き英雄誕生』『キング・ナレスワン〜アユタヤの勝利と栄光』のシリーズ2作は相当に見応えのあるもので、予想を上回る面白さだった。

監督は王族出身でUCLAでコッポラと肩を並べて映画を学んだというチャートリーチャルーム・ユーコン殿下。タイ王室と映画との密接な関係は、やはりビルマとアユタヤの闘いをユーモラスに描きながら他国に侵略せず中立を保つことをアピールした『白象王』(1941)から伺い知れるが、ハリウッド娯楽超大作を凌駕しそうなこの映画も、その系譜上にあると思われる。



タイの三大王の一人として、ムアイ(ムエタイ)の創始者としても有名なナレスワン大王の生涯を描く三部作。その第一部『キング・ナレスワン序章〜アユタヤの若き英雄誕生』。

ホンサワディー国(ビルマ)によって侵攻されたピサヌローク領の王子オンダム(ナレスワン王の幼名)が人質としてペグー(今のバゴー)に捕囚される幼少期を描いたもの。

素晴しいと思ったのはその登場人物たちのキャラクター造形。特に敵国ホンサワディーのブレーンノーン王(バイナウン王)の野望と礼節、懐深くも残虐性を持ち合わせたキャラクターは映画に深みとうねりを与えていたし、オンダムが弟子入りし武術を習うチア高僧は、キンマの実をもごもご噛みながら居眠りなんかしたりしているのだが、実は武術や学問に秀でていたりする。オンダムの尻を何度も叩いて説教するのが役目だが、よき理解者でもある。

オンダムは正義感の強い知恵の働く少年で、僧院でのエピソードは「一休さん」的世界を思わせる。闘鶏のシーンではブレーンノーン大王の孫、マサムキアットと勝負し、タイvsビルマの対決軸をはっきりさせ、このシリーズのテーマだと思われる「戦わなければいつまでも自由になれない」という言葉を何度も繰り返す。オンダムはその行動力で徐々に捕囚されたシャム人たちの信頼を得て行く。一方、オンダムの父親のピサヌローク王は、お国のためとはいえ、実は相当腹黒そうな男だったりする。自分の娘アミューヨ王女を大王の妾として送り出したり、結果的に傀儡とはいえ、姻戚関係にあったアユタヤの統治権を手に入れてしまう。

アユタヤ王の次女が「スリヨータイの娘」というプライドを示し、ブレーンノーン王の前でかんざしで自害するシーンや、アユタヤ陥落に知恵を入れたチャクリ参謀が褒美をもらう席上で「かつて自分が仕えていた王を裏切るとは、そのうち私を裏切るにちがいない」としてその場で殺されてしてしまうシーンは、「あっ」と声を出さずにはいられなかった。



第2部『キング・ナレスワン〜アユタヤの勝利と栄光』

ホンサワディーのブレーンノーン王が崩御した後、帝国が不安定化する世の中で、逞しく成長したナレスワン王子が、謀反を起こす属国を打ち破りながらも情けをかけ、大衆の心をつかみ出世していく様子が描かれる。一方で、その勢力に脅威を感じたサムキアット皇太子らが、ナレスワンを暗殺しようと企む。裏切りを知ったナレスワンはついにホンサワディーとの対決を宣言する。

画面作りも相当に力が入っている。豪華なセットから背景の隅々にわたり配置された群衆、惜しみなく炸裂する爆薬の多さは、CGだけに頼らない古き良き時代の「大作もの」を思わせる。この辺りはコッポラ世代の監督ならではなのかもしれない。主役のナレスワン王を演じた俳優は、実は現役軍人の素人さんだというから驚きである。興行ばかりを意識しての即物的にアイドル俳優ばかりをキャスティングしてしまう最近の邦画には真似のできない芸当だ。エキストラも軍人と思しき体躯のいい人を取り揃えていて、軍の協力も大きかったのではないかと思う。

タイヤオ族、モン族が登場し、そして刺客として送り出されるナーカー族という首狩り族が忍者のように飛び回る。サブストーリーとして、ナレスワン王のよき相棒プラチャマヌー(幼名ブンティン)と、カン領(タイヤオ族)の王女ルーキンとの恋愛話が挿入されていて、実はこちらの方がナレスワン王より目立っていた。(長髪を振り乱し闘うプラチャマヌーの姿が一瞬トム・クルーズに見えてしまうのだが、このシリーズは『ラスト・サムライ』より遥かにいいはず)また、ルーキンの側近のマークモーンというタイヤオの女兵士が格好よかった。サトーン川の浮き橋の爆破は最大の見せ場だったと思うが、もう少し盛り上げてほしかった気もする。いや、これはむしろ第三部を盛り上げるために抑えたのかもしれない・・・と考えたい。



この映画には義勇兵として山田長政が出てくるのだが、教科書の上では、ナレスワン在位中には、まだ渡来していないことになっているので、間違いということになる。山田長政の出自はかなり謎らしく、監督はそれを承知の上で登場させたのだと思うが、そのユーモラスな扱いにちょっと苦笑してしまう。(山田長政を演じた俳優さんは『セルラー・シンドローム』にも寿司屋の店長として出演していたと思う)

山田長政が仕えたのはナレスワン王より三代あとのソンタム王。その辺りのことは、初の日タイ合作映画『山田長政 王者の剣』(1958/大映 加戸敏監督)でおさらいするのがいいかもしれない。といっても、長谷川一夫主演、若尾文子も出演するこの大作映画は、日本のスタジオで撮ったものと、現地ロケした別撮りした映像を部分的にモンタージュした代物で、合作というイメージからは程遠いように見える。時代考証と衣装はタイ人がやっているものの、挨拶のサワディーと乾杯のチャイヨーくらいしかタイ語が出てこない。でも市川雷蔵がドーランを塗りたくりタイ人役をしているのが強烈なインパクトとして心に残る作品ではある。


【左目】

『世紀の光』

『世紀の光』がもう一度見たかった、とここで嘆くのはちょっとした嫌みに聴こえるかもしれない。
アピチャートポン監督の作品は今回の「タイ式シネマ・パラダイス」でも特集上映されているが、残念ながら肝心の『世紀の光』は上映されなかった。(あたりまえか)一昨年の東京フィルメックスで「完全版」を一度見ているのだが、なぜか来場途中にコンタクトレンズを片方落としてしまい、(ガチャ目で観るのもアピチャートポンの世界観に相応しい気もするのだが)残念ながら細部をきちんと把握できなかったので、是非もう一度観てみたいと思っていたのだ。

『世紀の光』はモーツアルトの「魔笛」をベースに作られたもので、小さな診療所での医者と患者の対話という図式が、大病院でも「変奏」されるという構成の映画。診療所から大病院に移り変わる節目のようなシーンで、キューブリックの「シャイニング」のホテルのシーンのような長い長いカメラの横移動があり、不協和音のファンファーレが流され、そこに王族の胴像が映し出される。これがプミポン国王のものだったか、「タイ医療制度の父」と言われるマヒドン親王だったのか、正直あやふやなのだが、(誰か知ってる方教えてください)やんごとなき人の像であった事は確かで、直感的に、このシーンはまずいのでは?と思った。

案の定、この映画はタイのセンサーシップにひっかかり、問題なのはその胴像のシーンだけかと思っていたら、僧侶がギターを持っているシーンや、病院での情事のシーンとか、合計5カ所のカットを強制された上での公開になったらしい。これじゃ、ズタズタである。多分、あの胴像のシーンが逆鱗に触れてしまって、いろいろ難癖つけられてしまったのではないかと想像してしまう。




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コメント 6

taka

こんにちは。『世紀の光』でしたら、アメリカでDVDがリリースされてますので、amazon.comから購入が可能ですよ。
by taka (2008-08-09 15:16) 

モンキーカネコ

taka さん、はじめまして。
情報ありがとうございました。

アメリカ版アマゾンから購入できるんですね。このDVDはもちろんオリジナル・ノーカット版ですよね?(笑)リリース時期が今年1月のようなので、時期的に少し心配になります。

今回の映画祭では「配慮」があったのか正確なところはわかりませんが、いろいろ勘ぐってしまいますね。今後、日本でオリジナル版上映の可能性はあるのでしょうかねえ。ちょっと心配になりました。

http://en.wikipedia.org/wiki/Syndromes_and_a_Century
by モンキーカネコ (2008-08-10 00:49) 

taka

モンキーカネコさん

私がアメリカ版アマゾンで買ったDVDは、タイで検閲にひっかかった部分はしっかりと映ってますよ。本当の意味でオリジナルかどうかはわからないですが(『Blissfully Yours』のDVDもリリース国ごとに多少違うようなので)。

ちなみにちょっと前にイギリスからもDVDがリリースされてて、こちらは『Worldly Desires』もいっしょにはいってるので、いまさらこっちにすればよかったななどとも思ってます。
http://filmstore.bfi.org.uk/acatalog/info_8652.html

確かに今回の映画祭、スポンサーもスポンサーなので、「配慮」があったのかちょっと勘ぐってしまいますね(笑)。
『世紀の光』は日本でもすでに上映されているので、今後も上映の可能性はあると思いますよ(日本での上映されたのは見てないのでオリジナル版かどうかはわからないのですが、たぶんオリジナルかと)。

by taka (2008-08-10 02:07) 

モンキーカネコ

お得な情報ありがとうございます。
確かに映画はバージョン違いも多いですよね。本当のオリジナルは確かにわからないですね。国によってセンサーシップも違いますし。日本も相当なもんですから、あまり他国を批判ばかりしていられないですけど。『Blissfully Yours』なんかボカしだらけですしね。
by モンキーカネコ (2008-08-10 21:36) 

タイ納税者

在タイ就労日本人です。ナレスワン大王大好きです。このシリーズと前作「スリヨータイ」(ナレスワンの祖母)のタイ語版CD時々見ています。
>タイで検閲にひっかかった部分はしっかりと映ってますよ。
 どんな部分なんでしょうか。


by タイ納税者 (2008-11-29 13:48) 

モンキーカネコ

タイ納税者様、こんにちは。
レスが遅くなり、すみません。
「スリヨータイ」まだ見てないんですが、ナレスワン王から察するに、きっと期待を裏切らない映画なんだろうと思います。

DVDをまだ仕入れていないので、どの部分がどうなった、ということは僕からはお伝えできないので、タイ映画を研究されているTakaさんのブログで質問していただければと思います。

検閲にひっかかった6カ所のショットはYou tubeにアップされています。再生リスト(6)を御覧ください。

http://jp.youtube.com/watch?v=POcyqNMxc0w&feature=PlayList&p=A71D2452CB3F014D&index=0


by モンキーカネコ (2008-12-04 22:13) 

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